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塩適量について

料理をしようとレシピを見ていると、よく見かける「塩適量」という表記。中級者以上なら、なんのことはない「はい適量ですね」で済まされる表現ですが、料理初心者には「適量ってなんだよ!」ってなりがちですよね。僕も料理を始めたころはレシピ本を買ったりして「作るぞ」ってなった時、この「適量」に苦しんだものです。だって、勝手がわかりませんからね、適量の。例えばご飯なら、茶碗1杯から丼飯5杯まで、人によって幅が広いわけじゃないですか。人類の可能性は広いじゃないですか。今はこんなの屁理屈だってのはわかりますが、ほんとに最初のころは、本気で思ってましたからね。

適量とはいったい何なのか。

料理人として料理を突き詰めていくと、塩分が最重要ファクターであることを常々思い知らされます。どんなに良い素材を使っても、どんなに素晴らしい調理器具で完璧な仕立てをしても、塩分が決まっていないとすべてが台無しになります。逆に言えば、塩分さえ決まっていれば、ほとんどの食材は美味しく食べることができますし、多少仕立てに失敗したって何とかなるものです。

とはいっても、昔の自分が感じていたように、人によって幅があるわけで、誰に対してもおいしいと感じる塩分濃度なんて存在するのか、と思うかもしれません。しかし、この塩分のストライクゾーンともいえるものは確実に存在します。これは、長年料理人をやってきた経験でもありますが、濃い味派の人も薄味派の人も、全員が納得できる、ゴルフのゲームでナイスショットってなるくらいのパーフェクトポイントがあるんです。そしてこれは科学的にも証明できるんです。

人体の塩分濃度

ヒトの血液中には1リットルあたり約9gほどの塩分が存在しています。この塩分濃度が多すぎても少なすぎても、人体にとってはよくない影響があります。そのため、人間は常に自動的に塩分を調整しようとしているのです。食事をするときには血中塩分濃度が一定に保たれるように塩分を摂取する本能が備わっているため、人間の味覚はこの濃度、つまり0.9%前後が一番おいしく感じるように設定されているのです。もちろん、塩辛などは圧倒的に塩気が強いですが、大量に食べるのは正直きっつい。なのでお酒やご飯と一緒に食べますよね。これはもちろん、体が塩分を調整しようとする働きによるものです。逆に暑い夏に大量に汗をかくようなスポーツや仕事をした時には、しょっぱいものが食べたくなったりしますが、これは発汗により失われた血中の塩分を補おうとする自然な行為なんです。

適量の塩分とは

上記の理由から、人間がものを食べるとき、美味しいと感じる塩分濃度は料理全体に対して0.9%前後ということになります。

果たして本当にそうなのか、と疑問に思うかもしれません。なのでこちらにスープの塩分の嗜好許容度について研究されている方の文を見つけましたので、ご一読ください。途中、大変難しいので、右下のまとめの部分だけ抜粋しますと

3 種類のスープの嗜好許容度を塩分濃度でみると、味噌汁は0.70%~1.30%、コンソメは 0.50%~1.09%、おすましは 0.60%~1.30%であった。スープの種類により塩分嗜好許容度はほとんど変わらないことが示唆された。

との結果が。いずれも0.9%を含んでいることがわかると思います。

この濃度であれば、濃い味派も薄味派もどちらも納得できるストライクゾーンにはまります。もちろん、状況によって感じ方は多少変わってきますし、調理法によっても、またその目的によっても変わってきます。基本的には0.9%ですが、例えばステーキにかけるソースであれば、肉と一緒に食べたときに0.9%くらいになるように少し濃いめに調整したり、塩辛や明太子のようなご飯やお酒を進めることが前提の品であれば圧倒的に強くします(保存目的もありますが)

ではなぜ適量と書くのか?

当たり前ですが、手に入る素材の重さや量は常に均一ではないから、というのが理由になります。レシピでは「鶏肉300g」という表記を見ますが、便宜上分量が必要で書いているだけで、実際にスーパーで「鶏肉300g」ってビシッ狂いなく売っているなんて光景、見たことないですよね。なので買ってきた鶏肉の分量に合わせて「適量」でお願いします、ということなんです。無責任に見えますが、そこまで責任もってレシピを書こうとするなら

鶏肉 食べたい量
塩 鶏肉に対して0.9%

みたいになります。こっちのほうがわかりにくいですよね?

結局解決していない気がする

いえいえ、適量とは0.9%前後である、ということを理解しているのとしていないのでは、天と地ほどの差があります。面倒でも一度量って料理してみてください。そして今後料理する時の指針にしてみると、塩分に関しては失敗がほぼなくなりますよ。

とはいっても、今までもこれからも、適量は適量のままなんですけどね…

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