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「替え玉」が出てこない

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昨日、仕事を頑張ったご褒美に行きつけのラーメン屋を訪れた。
そのラーメン屋はいつ行っても満席で、老若男女問わず人気のお店だ。

昨夜は日曜だというのに、満席だった。
私は1人、店内の入り口にある椅子に腰掛け、youtubeを見て待っていた。

少し待ったタイミングでメニューが渡された。
行きつけのお店なので、メニューを見ずとも頼む商品は決まっていた。

「1名でお待ちのタナカ様〜」
10分ほどで席に案内された。

頼んだのは、
とんこつラーメン(バリカタ)
トッピング全部乗せ
餃子セット(明太子ご飯に変更)

これだ。
これだけを楽しみに1日を走り抜いたのだ。

テーブルに用意されているピリ辛もやしナムルと高菜をつまみながら、
ラーメンの到着を待つ時間もこのお店の楽しみ方の一つだ。
水を一口でも含んでしまうとピリ辛もやしナムルが口内を刺激し、
水を飲まずにはいられなくなるため、食べ終わるまで水は我慢しなければならない。

ようやくラーメンが到着した。
レアの状態で出てくるチャーシューは火が通り切ってしまう前に食べてしまうのが一番美味しい。
その後はラーメン、明太子ご飯、餃子をローテーションしながら食べていく。
もちろんスープも絶品なので、啜りながら箸をすすめていく。

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普段はこれで満足なのだが、猛烈に頑張った1日だったので、
替え玉をすることは仕事の途中の時点で確定事項だった。

一通り食べ終わった私は店員さんを呼んだ。
「すみません」

満席のラーメン屋さんの店員さんには、私の声が一回で聞こえるほどの余裕を持ち合わせてはいなかった。

「すみません」「すみません」「すみません」

何度も店員さんを呼ぶ自分を横目に、隣に座っているカップルの女性の方が冷ややかな目で私を見ているのがなんとなくわかった。

ようやく気づいた店員さんがこちらに駆けつけてくる。

店員さんが目の前に来た瞬間だった。

「・・・えっと。なんだっけな・・・」

私は店員さんを目の前にしたまま硬直してしまった。
「替え玉」という言葉がすぐに出てこなかったのだ。

何度も何度も呼んでいただけに、すぐに注文を出来ない自分に焦りだした。
そうなると余計に言葉が出てこなかった。

隣の席のカップルの男性の方も、店員さんを呼んだのに立ちすくんでしまっている自分を見て、不穏な表情を隠せないでいた。

辺りを見回してメニューを探すと、「替え玉」という文字が見えた。
焦った様子を悟られないように、冷静を装ったように見せかけて

「替え玉バリカタで」

と注文をした。
おそらく冷静なんて全く装えていなかっただろう。

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注文を終えた自分は立ちすくんでしまった。
毎日仕事で何人ともお話しをして、何時間でも話をしているため、
「吃る」「言葉が出てこない」と言った経験はそう多くなかった。

そう。「そうは」多くなかったのだ。
あの日を迎えるまでは。

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