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ははうえさま

私は調子がいいと、鼻歌か口笛を吹く癖がある。そういう時の歌と言うのは、歌おうと思って歌っていない。だから、自分でも忘れていたような懐かしの歌を脳が選曲していることが多い。
後は、朝の連続テレビ小説を見逃さないように、ビデオに撮ってまで見るほどファンになってからは、最初は聞き慣れなかった歌が、毎回一か月もすれば鼻歌のレパートリーに選ばれることもある。
なぜかよく選ばれるのは、ミュージカル「アニー」の「トゥモロー」や「キャッツ」の「メモリー」、「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」だ。ミュージカルがすごく好きなわけではないのに、ミュージカルの曲がベストスリーを獲得だ。意外と好きなのかしら。やっぱり、ミュージカルだけに、鼻歌であっても歌うと気持ちが良いのかもしれない。
それから後は…昔見たアニメの主題歌が出てくることもある。「不思議な島のフローネ」とか「ニルスの不思議な旅」とか、「母を訪ねて三千里」、「キャンディキャンディ」。歌い始めて、何の歌だっけ?と思い出すこともある。先日は、何の歌だかさっぱり不明だったが、中学の時にクラスで作った学級歌だったことがようやく判明した。しかも、自分のクラスの曲ではなく、違うクラスの学級歌だったことにも驚いた…。

結婚して間もない頃のある日は、お馴染み「一休さん」であった。
「すきすきすきすきすきっすき。いっきゅうさん。」
ご機嫌さんで歌っていると、主人がリクエストしてきた。
「一休さんは、エンディングにして。」
一休さんのエンディング?一休さんは「すきすきすきすき…でしょ。」とは思ったけれど、エンディングを脳内検索してみる。ただでさえ、自分でも思いもよらない歌が選曲されるのに、自ら掘り出すのはとても難しいと思い出そうとしていると、
「ははうえさま~、お元気ですか~?」
と主人のヒントが出た。主人の歌声は微妙に音程がずれていたが、すぐに思い出した。そして、同時にちょっと嫌な気分になった。主人のははうえさまを思い出したからだ。いやいやいやいや、マザコンかよ…と思ったのだ。
「なんで、このエンディングの方なの?」
と聞くと、
「この歌が好きだから。」
と、答えたもんだ。マザコン決定。悔しいから、
「ははうえさま~。」
「いっきゅう~。」
と、瞬時に静かに歌を終わらせた。
「いやいやいやいや!それ一番終わり!そんな短い歌じゃない!もっとちゃんと歌って!」
といつになく憤慨するので、仕方なく今度はきちんと歌ってみた。
私が歌詞に詰まると、主人がキチンと歌詞をのせてくる。流石好きというだけはある。しかし、改めて歌ってみると、なんと切ない歌なんでしょう。
幼い頃から、ははうえさまと離れて小坊主になった一休が、ははうえさまに書いた手紙がそのまま歌詞となっている。きれいな星を見つけて、ははうえさまを思い出し、寂しいけれど強くなると綴る。健気すぎるではないか。

しかし、なぜ、この歌にそこまで共感するのだ?ふと気になってしまった。あなたのははうえさまは専業主婦だったと聞いているし、体が弱かったわけでもないし、ましてや別々に離れ離れで暮らしていたわけでもないのに。モクモク想像に想像を重ねるのは、私のもう一つの悪い癖でもある。
常に傍にいるのに、こういう思いをしていたの?
だとしたら、相当厳しくて甘えられなかったのか?
いや…。いつも弟君の話ばかりだから、ははうえさまのエコ贔屓が凄まじかったか?
私から見てもどうも愛情が薄い、ははうえさまではあるのだが。
いづれにしても、ははうえさまをとっても必要とした幼い時、満たされずにいたことは確か…かもしれない。それでも、ははうえさまとは偉大な存在である。確実にその子達は良くも悪くもははうえさまの影響を受けるし、ははうえさまを求めてしまうものなのだ。
この人は、マザコンだ。けれど、寂しさをははうえさまに埋めてもらうのでなく、自分で消化してきた分、強いのかもしれないと思った。そのせいか少し歪んでしまった部分はあるけれど。
(主人については『ジーンとドライブ』で綴っています。)

それから、私の脳内に「一休さん」の「ははうえさま」はインプットされた。幼かった主人に思いを馳せてながら歌っている。



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