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行く先は決まってる

全てのことには意味があるのだ…とはよく聞く話だ。私だって頭では理解している。でもひねくれた私は、どうせそれは何かを成しえた人の言葉でしょう…と、どこか斜交いに捉えていたかもしれない。それを、真っ向から本当なんだよ!と知らされた気がした。

今回頂いたお仕事はイラストだけど、パースの要素を大いに含んでいた。
私は長い間、父の設計事務所の仕事を手伝っていて、CAD図面を描いていた。時々は下手糞だったがパースも描いた。CADを使ってなんとかそれらしくは描いて色付けをしたが、パースの仕事は苦手だった。外観のみならまだしも、室内の風景を描いたような手描きのパースは本当に嫌いだった。透視図が苦手なのだ。近くにあるものは大きく遠くのものは小さく…実際に目で見た様に描かれた絵のことで、私にはとても難しかったのだ。そもそも、建築の仕事は、父が病気になった為に仕方なく取り組んでいただけで、元々、建築の仕事は自分には合わないと他の道を進もうとしていたのだった。

15年近く経って父が亡くなり、やれやれと、建築の仕事からは離れることばかり考えていた。これからは絵を描いたり、手仕事をしたり…兎に角、ずっとやりたかったけど出来なかったことをしようと考えていた。でも、15年の時間はとても長く、ブランクを埋めるのは大変だ。それに、必死で目の前のことをただひたすらに頑張ってきたが、15年近くしてきたことは自分にとっては全くの無駄だったのではないか…とも思い、虚無感にも襲われた。
もし、父の仕事を手伝うと決めた時、仕方なく…とか、今だけ…というような気持ではなく、父のことは別として自分の仕事として意識してやっていれば…と、自分がいつもどこか逃げ腰だったことに後悔したりもした。そんなことも思い出したくなくて、頑固に建築とは関係のないイラストの仕事にばかり取り組んだ。

ところが、ここにきて舞い込んだ仕事は建築関係の仕事だったのだ。
イラストと言っても、パースの要素が入ると少し特殊になる。かといって、設計士の人が描くカッコイイパースを求めているようではなかった。そのほんの小さな隙間に私がいた。自分のイラストと、苦手だけど続けていた建築パースが無駄なく奇跡的にガッチャンコしたのだ。単発の仕事だけど、この一つの仕事を頂けたお陰で、全てが報われた気がした。
それにひとつ気づいたことがあった。とても苦手意識が強かったパースだが、以前よりはストレスがなかったのだ。長い時間をかけて、知らないうちに鍛錬していたのだろうか…。イラスト要素が強く、カッコよく描かなくちゃというプレッシャーがなかったからなのか…。不思議だった。
前のイラストレーターがほぼ決まっていた段階で交代となったため、時間があまりにも限られていて、間に合わすために必死だったが、狐に化かされているような、雲の上にいるような気持ちで作業していた。久しぶりに図面や写真とにらめっこして、懐かしく楽しかった。あんなに避けていたのに、15年近く関わってきたことで、自分の中の個性として確かに存在しているのだと思った。

この仕事を依頼してくれた人はデザイナーで、小さくて簡素なホームページを見て連絡をくれた。
いつだったか、重い腰を上げて参加したセミナーで、ホームページの大切さを指南されて、とりあえずそれらしいモノを作っておこうと作ったモノだった。セミナーではキチンとしたものを作る様に勧められたが、そこにお金をかけたくなかったので、無料のツールでサクッと作っておいた。2年前のことだ。
小さなホームページを作った意味が2年越しで花咲いたということだ。あの時、作っていなかったらこの話はない。今となっては何で行く気になったか分からないセミナーに行ったことも、行っていなかったらホームページを作ろうとは思っていなかったかもしれない。

その時々、無意識に取り組んでいることが、後々になって必然だったことに気づく。それが本当にあるのだと確信したこの数日だった。
いつも迷う。どっちへ行くべきか?どこへ行くべきか?何をしようか?
未来は分からないし見えないけど、もう決まっているのかもしれない。
目の前のことをしっかりやる。ふと、思いついたことをやっておく。欲しいな…と思ったものを手にしておく。ピンときたモノコトをピックアップしておく。そうやって種をまくように過ごしていると、いつかそれら花が咲く。「それ、何の意味があるの?」
そう言われることがよくある。自分でも分かっていないことが多い。でも何となくやろうと思った…それでいいのかもしれない。それが何時咲くかは分からない。未来が分かれば、右往左往せずに済むのにと思う。だけど、それじゃあ人生面白くない。そういうことだ。
どんなに転がっても、間違ったとしても、行先は決まっている。
普通のそこいら辺にいる私が言う。全てのことには意味があるのだ…。


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