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【インタビュー】ニットデザイナーであり羊飼いである山田さんに、ニットと羊について、色々聞いてみました。

今回のインタビューは、ニットデザイナーであり、羊飼いでもある山田聖義さんがインタビューに応じました。

服好きである私ですが、ふと素材やその素材の生産側にはあまり注目してこなかったと気づきました。
その気づきから始まる今回のインタビューは、羊飼いをしながら、国産羊毛を中心としたニット製品を製作をする山田さんにオファー。
ありがたいことに、快くインタビューに応じてくださいました。

それでは、ぜひ最後までご覧ください。

プロフィール : 山田聖義(やまだ まさよし)

文化服装学院でニットを学び、現在は秋田県在住。ご職業は、ニットデザイナー兼羊飼い。
今年の4月に国産羊毛をメインに手紡ぎ・手編みでニット製品を企画・製作・販売をするお店「一匹のひつじ」を開業。5月には、工業用のカーディングマシーンを導入し、カーディング代行も開始した。今年中に初の展示会を開けるよう、準備中。
また同時に「あきた牧場」で、羊飼いとしても修行をしており、将来的には自分の牧場を長野で始めたいと考えているのだそう。

山田さんに聞く20の質問。


Q1. お店「一匹のひつじ」という名前の由来について、教えてください。

A.
お店の名前の由来の前に少し私の紹介をさせていただきます。
私は両親がクリスチャンの家庭で育ちました。なので小さい頃から教会に通っています。
教会で聖書の話を聞いてきた中で特に印象に残っていたのが99匹の羊と1匹の羊の例え話でした。
簡単に紹介しますね。あるところに100匹の羊を飼っている羊飼いがいました。ある日群れから1匹の羊がいなくなったことに気づいたら99匹を山に置いてその1匹を探しに行くのではないか。というものです。由来はこの聖書箇所から来ています。
私はこの居なくなった1匹の羊を探しに行く価値を考えたら、なぜ大きなリスクを犯してまで羊飼いは探しに行くのか?と、不思議に思っていました。しかし、実際に羊と関わり始めてからは1匹1匹を大切にできなければ羊飼いにとって財産である羊がいなくなれば生きていけなくなる。だからとても大切なものだというのがよく理解できるようになりました。
これと同じようにニットのお店を始めるならこの羊飼いのように、お客さん一人一人を大切にできるようにしたいと思い「ひつじ」は関わる人たちの意味を込めて平仮名で書き「1匹のひつじ」という名前にしました。

Q2. 一年を通して、お仕事ではどんなことをしているのでしょうか。

A.
お店を始めてまだ半年しか経っていません。なので、一年を通してとなるとまだぼんやりとしていますが基本的には春に羊の毛刈りが行われます。そこで採れた羊毛を選別して、洗い、紡いで糸を作り、編むという流れを辿る予定です。また今は羊の飼い方を覚えるために秋田県にある、あきた牧場で働いているので羊の世話を毎日行っています。
依頼があればその都度カーディングマシーンを使った羊毛を加工する作業の代行しています。



Q3. カーディングですが、どんなものなのでしょうか。

A.
カーディングというのは羊毛などの繊維を梳く(すく)という工程で、毛刈りした後洗った状態の羊毛は糸を紡ぐのには扱いづらい状態です。そこで羊毛を均等に混ぜて毛の向きを揃えた状態に加工します。この加工された状態の羊毛をバッツと呼びます。そのための羊毛を加工する工程がカーディングです。
紡ぎ車で紡ぐ際にはこのバッツを持って紡いでいきます。そうすると毛の向きが揃っているし、均等に混ざっているので撚りをかけて糸にしていくときにスムーズに毛が引き出されてきます。なので、カーディングという工程はとても大切な工程です。

Q4. 一匹のひつじでは、どのようなアイテムを展開していくのでしょうか。

A.
現在考えているものですと、まずは帽子やミトンなどの小物から始めて、今後セーターやカーディガン、ベストなどの服も製作していきたいと考えています。



Q5. アイテムを製作することにおいて、アイテムに込めるお気持ちや拘りを教えてください。

A.
一匹のひつじでは基本的には国産羊毛を使い、手紡ぎと手編みで製品を作っていこうと思っています。量産では表現できない風合いや、見た目が手紡ぎの糸や手編みには表現できるのでそこに拘ろうとしています。
また、国内の羊毛は繊維業界から見ると扱いづらい素材になります。理由としてはいくつかありますが、一番大きな要因が羊毛を大量に洗う設備が整っていないということです。
特に羊が生活する中で毛に混入する植物の種や、小さな木の枝などを綺麗に取り除くための薬品を使った処理が国内だと法律が変わり出来なくなっています。
なので、一部の国産羊毛を除いてほとんどは毛刈りした後そのまま捨てられています。
でも、その中には状態の良い羊毛も混ざっているので微力ではありますが私の方で少しでも製品にしていきたいと思っています。

Q6. どんな人に、ニットが届いて欲しいと思いますか。

A.
羊に興味がある人や、作り手が見えるものづくりに関心のある人に届いたら嬉しいです。



Q7. 世界各国に多種多様な羊毛があり、海外に頼る場面も多い羊毛ですが、そもそも、山田さんが国産羊毛に拘る理由を教えてください。

A.
国産羊毛は前述のように洗う設備と、羊毛に混入する夾雑物を取り除くための設備が無くなってしまったために扱いづらくなっているだけなのでそこをクリアできれば質の良い羊毛もあるのは事実です。
特に海外から輸入されてくる羊毛の多くはメリノという羊の毛です。羊毛の王様と呼ばれるメリノですがそればかりがあっても面白くないと私は思います。日本にいる羊は海外と比べれば頭数は少ないですが約20種ほどいます。そのどれもメリノとは違う毛質を備えているので、私はそこをアイテムに合わせて使い分けたりして活用していく道を作って行きたいです。



Q8. 羊について、ぜひ魅力を教えてください。


A.
羊の魅力はたくさんあって上げるとキリがないので二つあげますね。一つは一緒にいて落ち着くところです。羊は基本的には臆病だけど好奇心が旺盛な性格をしています。なので、基本的にはこちらが驚かせたりしなければ近寄って来てくれます。中には人のことが好きな羊もいるので撫でさせてくれるのでそういった子との触れ合いが癒しを与えてくれます。
二つ目は羊がいたら生きていけるということです。どういうことかというと、羊は歴史的に見ても人間と生活を共にしてきた時間が長い生き物です。犬の次に長いのではないかとも言われています。そんな羊は私たちに毛やお肉だけに限らず、毛皮やラノリンという脂、ホルモン、などなど羊からいただけるものを活かせばそれだけで衣食住が整うという有り難い存在です。
毛皮や毛はモンゴルなどではゲルというテントを作るのに使われています。お肉も日本ではジンギスカンという呼び方で羊肉料理と認識があるかと思いますが、ジンギスカンよりも塩で茹でただけの羊肉料理、シューパウロー、骨付き肉のラムチャップ、スープなどにしたら美味しい脂が滲み出て…もう絶品です。少し熱が入ってしまいましたが、その他毛を紡いで糸にすればセーターなどの服にも出来るというのが衣食住を賄えるということです。なので、これからどんなことが起ころうとも羊がいれば困ることはないと私は考えています。それだけ羊にはポテンシャルが備わっており、魅力的な存在です。

Q9. 羊飼いとしてもお仕事をされていますが、あきた牧場を選ばれた理由や出会いのきっかけはありますか。

A.
一番最初はTwitter、今でいうXのDMで武藤さんに学校の課題で使いたいので羊の写真をください。と連絡したのが関わりの最初です。
そこから私が専門学生のうちに羊飼いを目指そうと考え始め、全国を巡りましたが受け入れてもらえるタイミングが合う牧場さんと出会えず一度就職をしました。就職したのは毛糸を作る会社でした。ただ働きながらも羊飼いになる思いは変わらず、むしろ大きくなる一方でした。そんな時に武藤さんと直接会う機会があり、その時にうちの牧場で羊毛を活用してくれる人を探しているんだけどやらない?と声をかけてもらいました。僕も羊の飼い方を知るには良い機会だと考えて今年3月から秋田に移住してあきた牧場で羊と関わっています。
あきた牧場は始まってまだ数年の牧場です。なのでここでは就農して羊飼いを始めたばかりの苦労などを見たり聞いたりすることで、私が独立して羊飼いを始める初期の参考に出来たらと思ってここで経験を積んでいます。いつか大きな牧場も見れる機会があれば行ってみたいと思っています。



Q10. 羊とは、山田さんにとってどのような存在でしょうか。

A.
私にとって羊は一言で表せない存在です。見た目は小さくとも、彼らは私にとって大きな存在です。

Q11. 独立を目指しているということですが、何か具体的な目標とか、そのために準備していることがあれば、教えてください。

A.
今は独立を視野に入れて、飼育の経験値を得る期間として日々動いています。そのために訪問できる牧場や羊飼いの方の元へ行き、話を聞くようにしています。
羊飼いの世界はとても狭いので、訪ねた人が知り合いの知り合いだったりします。そこが面白いところです。
牧場を始めるにあたって、まずどこでやるか。どれくらいの規模から始めるのか。土地はどれくらい確保できるか。羊を飼うのに適している環境なのか。などなど、考えることや調べることが沢山あります。
今はその一つ一つを少しずつ計算してみたり、実際に始めてみたいところの下見にいったり情報を集めています。
具体的な目標としては30歳までには羊飼いとして牧場を始めようと思っています。頭数としては200頭くらい飼育できる人になりたいです。



Q12. ちなみに、独立の場所に"長野県"を選ぶのは、なぜでしょうか。

A.
ぼんやりと想像する中で出身地、群馬に近い場所でできたら良いな…。と考えています。たくさんの頭数を飼うとなれば北海道の方がまとまった土地はあると思いますが、海を渡らなければいけないのは私としては大変かなと思います。
また長野は一時期、北海道に次いで2、3番目に羊の飼育頭数がいました。なので、羊を飼うことに懐かしく感じる方も多くいると思います。地域によっては牛や豚の飼育の方が盛んだったりするので、羊が受け入れてもらえない場合もあるそうです。なので、今は長野で始めたいと考えています。

Q13. 今、羊飼いやニットのお店をしていて、大変だと思うことを教えてください。

A.
羊と関わる上では羊の言葉が私は分からないので、よく観察することですね。羊飼いの仕事は羊にとって過ごしやすい環境を整えてあげることです。なので、何を求めているのかを察してあげることが難しいです。
体調が悪いかもきちんと判断しないと手遅れになる場合もあります。そういった判断を学ぶことがこれから始める私にはとても必要なことですね。
ニットのお店を営む上では、関わってくれている人が一人いますが基本一人で活動しているので業務が多く、大変です。これは駆け出しの会社などにも言えることだと思います。
一匹のひつじの場合、お店自体は小さくても、製品を製作していくためには作業内容を部分的には機械化していくことが必要だと考えています。
大変ではありますが、そういったこと一つ一つを改善していくプロセスを考えることはとても面白いのでワクワクしていますよ。



Q14. 逆に、やりがい・楽しさについても教えてください。

A.
やりがいとしては羊から関わって、製品を作れるというところです。羊と生活をしながら、年に一度の毛刈りで毛をいただき、その毛で糸を作り、服を作るというのはなかなか聞かないと思います。
工業化が進んだ世の中では同じアイテムをたくさん作れるようになりました。それは文化が発達するためには必要なことです。
しかしそういった中で一匹のひつじは手編みにこだわっています。生産効率で見たら非効率です。しかし効率を優先することばかりを意識していたら、そのセーターが一匹の羊の毛から出来ているということに気が付かないのではないでしょうか。
なので私は「一匹のひつじ」で一人一人のお客様にアイテムの作られる背景を知ってもらい、アイテムを通して羊のことを知ってもらえるように活動していきたいと思っています。

Q15. 山田さんにとって、ニットとはどんな存在ですか。

A.
離れて暮らす母との共通点であり、私の原点です。私の一番古い記憶が、母が私にベストを編んでくれている姿です。そんな母から編み物を教わり、今はそれを仕事にしています。今では僕の方が編み物に詳しくなっている部分もあるので、母から時々電話で相談されることがあります。
私が私らしく生きるために必要なこと、それが編み物です。



Q16. ニットを通して、どんなことを表現、伝えたいと思いますか。

A.
羊と人間の関わりを伝えていきたいです。
生きる上で私たちは様々なものを動物から受け取っています。例えば命であったり、何かしらの私に対する想いだったりします。
それを出来る限りセーターやカーディガンなどアイテムの形に乗せて、私以外の人にも届けたい・共有したいと思っています。

Q17. 物作りを作る上で、これだけは譲れない!というような最も重視しているポイントを教えてください。

A.
中途半端なものは作らない。ということだと思います。これくらいまぁいいか。というような妥協はものづくりをする上ではしてはいけないと考えています。
デザインや、編み方一つとってもきちんと自分が納得いくもので作ることを目指しています。



Q18. 卒業は文化服装学院のニットデザイン科ということですが、文化服装学院での学校生活は、どんなものでしたか。

A.
楽しい時間でしたが、新型コロナウイルスが蔓延していた時期でもあったので、オンラインでの授業が中心でした。なのでもっと対面で編み方を習いたかったです。
ただ、そんな時でもやる気のあるクラスメイトと一緒にコンテストに参加したり、先生方とたくさん話して多くのことを知る機会を与えていただきました。

Q19. 展示会を予定していることについて、展示会テーマやどんなことをしたい、といった具体的な目標はございますか。

A.
手編みのセーターやベスト、カーディガン、帽子、ミトンなどアイテムはもちろんのこと、羊をイメージしやすい展示会や、より身近に感じれるテーマなどを通して羊と人間の距離を縮めることができる、そんな展示会を開きたいです。
カメラで羊をよく撮っているので写真や映像で伝えることもやってみたいです。



Q20. 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

A.
まずは一人でも羊が飼える人になりたいです。そのためにあと数年、牧場で研修を積み土地を見つけて始めたいと思います。
手編みニットのお店「一匹のひつじ」は、これから少しずつ製品を作っていきたいと思います。小さくも自分のやりたいことをきちんと形にして生きて行きたいです。そのために今は自分に足りないことや、自分に出来ることを精一杯取り組んで行きたいと思います。


— ご協力ありがとうございました。

インタビューを終えて

今回は、ニットデザイナーであり、羊飼いである山田さんにお話を伺いました。私自身、なかなか羊飼いのお話を聞くことが無かったので、とても刺激的に感じ、より一層、ニット製品に対する奥深さと面白みを感じたインタビューでした。

山田さんの羊に対する愛、そしてニットに対する想い。
これらから出来上がる今後のアイテムがとても楽しみです。展示会の開催準備もされているということですから、とても待ち遠しい。また、長野県での独立の目標も応援をしています。

改めまして、今回は貴重なお話とお時間をありがとうございました。

気になった方は、ぜひ下記にリンクを貼っておりますので、飛んでみてください。
それでは、また次の投稿で。



写真提供 : 山田聖義さま

【一匹のひつじ】
公式Instagram : @ippikino_hitsuji
山田さんのInstagram :@where_to_wear__

【あきた牧場】
あきた牧場代表Instagram : @tatsumimutou

お問い合わせ先 : 各InstagramアカウントのDMから

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