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STEAMはテクノアートを作ることではない: STEAM教育のA(アート)は、スティーブ・ジョブスが示す様にリベラルアーツのアーツまで深まること


アートやクリエイティビティのこの先の重要性は、ビジネス界に留まらず、イノベーションの分野、そこにつながる教育からもはじまっています。ここ5年ほどで、これからの世代のイノベーション力を育むためのSTEAM教育が世界中で注目を集め、さまざまな先進的教育機関で導入がはじまっています。

STEAMとはScience, Technology, Engineering, Art, and Mathematics/科学・技術・工学・アート・数学の英語の頭文字をとった略称で、この5つの分野での力を幼年期からしっかり育むことがAI時代の中で、デジタルネイティブと呼ばれる世代が活躍する基盤になるだろうという見地から開発された教育メソッドです。

このSTEAMは、元々はA(アート)の抜けた状態の、STEM教育として始まりました。若年時から、理系、特にコーディング技術などのエンジニア系の基礎知識などを子どもに身につけさせ、これからの時代に必要なテクノロジーを使いこなし生み出していく能力を養おうというものです。グローバル化が叫ばれた頃から始まった英語教育熱と同様に、子どもの将来を考えた親が一種の先見性を持って初めている教育の取り組みだ、とも言えるかもしれません。オバマ大統領の時代に、科学・技術の専門家を多く育成することを目標に注目され、アメリカではその勢いが加速しました。ゲームやアプリを楽しむのも良いが、それを消費する側になるのではなく、作る側になろうという目標で、シリコンバレーを中心にデジタルイノベーションで世界のトップを走るアメリカの開発力を一層高めようという方針です。日本のSTEM教育は、プログラミング教育という側面から受け入れられています。しかし、これが果たして、予測不能な時代を生き抜ける真のタレントを育てるものかというと疑念が残ります。論理的思考や、数学科学知識に幼い頃からなれ親しみ、エンジニアリング等の基礎を押さえておくのは確かに技術的なアドバンテージになるかもしれませんが、それは新たな価値を生み出し、想像する、クリエイティブな人になるということとはまた違うからです。先述した通り、企業がいま危機感とニーズを感じているのはまさにこの部分です。こうしたベーシックな技術力だけではない部分が育っていく芽をちゃんと育ててあげる必要があります。

こうした文脈の中で出てきたのがこのSTEMにArt(アート)のAを加えたSTEAMという理論です。技術力の向上と並行して、個人の独創性や発想力を育てる。近年多くのグローバル企業がMBA資格者のみならず、MFA資格をもつ社員を求め始めたのと同様に、他とは違う発想や想像こそが価値を産み、激化するイノベーション競争の中で生き残れるだろう、という考えのように思います。しかし、このSTEAMもテクノアートやデジタルアートを作ることが最終目標のように誤解されている節があるように感じます。実際のテクノロジーとアートがブリッジする部分を深いところで考え実践している教育者や実践者がまだまだ少ないのです。STEMのもつ、エンジニア志向の観点から付け足し的に美的要素を加えるだけではこの教育理論が本来目指すべきイノベーションや価値創造のレベルには到達しないはずです。表面的なフォルムやデザインの綺麗さだけを最初から追い求めるのではなく、もう少し、広く本質的なレベルでクリエイティビティというものを考え、それを伸ばすための機会を子どもに作ってあげる必要があります。技術力が拮抗し、かつ時代がより複雑に急速に変化する中では、予想外のことをつなぎ合わせてユニークな視点を作りだすことに優れているアートの価値が見直されています

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[キョンヲン・ムンとチョン・ジュンホのベニスビエンナーレ出展作品]

現代アートでは、単に絵を描き彫刻することでは無く、合理性や経済性等で切り捨ててしまっては掬いきれない、世界のさまざまな問題を自由な立場からリサーチし、考え続け、問いかけ、表現する力が大切になります。それゆえに、政治的対立やグローバル経済による弱者など社会的課題から、地球の持続可能性などまで、幅広い課題を深くリサーチした上で、表現する現代アート作品に国際的に注目が集まっています。自由に創造し表現するというような「作る」ことにだけ重きを置くのでは無く、STEAMという時のアートは、スティーブ・ジョブスが「アップルは、テクノロジーとリベラルアーツの交差点にある」と話す様に、広く人間が長い年月をかけて育んできた様々な智恵、そして多様な文化を礎にしたヒューマニティを思考し実現していく中での、自由な発想と創造のA/アートであることがキーとなります。つまりこのアートとは、リベラルアーツのアーツといえるまでの広く深いものです。

日本でもリベラルアーツ教育が注目されています。東京工業大学にリベラルアーツ教育が取り込まれ、また経団連の採用と大学教育の未来に関する産学協議会分科会『中間とりまとめ』には、 Society 5.0 時代の人材には、最終的な専門分野が文系・理系であることを問わず、リテラシーと論理的思考力と規範的判断力、課題発見・解決力、未来社会の構想・設計力、高度専門職に必要な知識・能力が求められる。これらの能力を身につけるにあたって基盤となるリベラルアーツ教育の重要性について確認されました。また、「少人数・双方向型のゼミや実験、産学連携の実践的な課題解決(PBL: Problem based learning)型の教育、海外留学体験などが必要なことも共有された。」とあります。



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