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新型コロナウィルスは他のどの動物よりも「人間」に結合しやすい構造を持っていた

様々な動物のACE2の立体構造を調べる

ウィルスが人工か、自然発生したものかを多面的に見る為に2020年6月のテクニカルな記事を取り上げます。オーストラリアのフリンダース大学のサクシ ピプラニら6人の研究者の共同研究です。

彼らはコンピュータ上で様々な動物のACE2レセプターを3D画像で立体化する実験をおこないした。(リンク先でとても美しいACE2の立体画像が見られます。)

In silico comparison of SARS-CoV-2 spike protein-ACE2 binding affinities
across species and implications for viral origin


イン シリコ、又はコンピュータでの計算は、細胞を使った実験よりもずっと早く、また素材を入手できない動物についても遺伝子配列からその細胞の特性を調べる事が出来るという利点があります。

ACE2レセプターは多くの動物の気道に存在していますが、その遺伝子や形、更に結合しやすいウィルスなども動物に固有のものですから、
動物の持つACE2レセプターの形状と分子構造を分析し、SARSCov2と結合しやすいものが見つかれば、それが探している中間宿主だという可能性があります。

グループが使用したサーバーは HDOCKサーバ、MDシミュレーションを使い MMPBSAアルゴリズムで計算しています。ACE2レセプターはMODELLERを用いて再現しました。

人間と最もよく結合するように出来ていたウィルス

結果は以下の通りでした。

Our structure-based approach revealed some surprisingly results, contrasting with to those from sequence based analyses. Conspicuously, the predicted binding between SARS-CoV-2 S protein and ACE2 was strongest overall for humans than for any species studied. The predicted strength of
SARS-CoV-2 S protein binding to ACE2 being human > pangolin > dog > monkey > hamster >ferret > cat> tiger > bat > civet > horse > cow > snake > mouse ACE2.

「我々の構造分析アプローチは、驚くべき結果を導き出した。SarsCov2タンパク質とACE2の結合が最も強いのは、他のどの動物でもなく人間だった。

人間>センザンコウ>犬>猿>ハムスター>フェレット>猫>トラ>コウモリ>ジャコウネコ>馬>牛>ヘビ>ネズミACE2の順であった。」

この発見は研究者を非常に驚かせました。突然変異というのは、非常にまれな現象なのです。

 This minimal mutation in the spike RBD during the history of the pandemic
suggests that the spike RBD was already optimally adapted to bind human ACE2. This finding is surprising as, typically, a virus exhibits the highest affinity for receptors in its original host species, presumed by most to be bat, with a lower initial affinity for the receptor of any new host species
such as humans. Then as the virus mutates and adapts to its new host species, the binding affinity might be expected to increase over time. Since our calculations are based on SARS-Cov-2 S sequences samples isolated in December and hence from very early in the outbreak, the finding that
the affinity of SARS-CoV-2 S protein is higher for human ACE2 than for any other putative host species was unexpected

「パンデミックでみられたこのスパイクタンパク質の最小限の変異は、結合部位は人間のACE2につきやすい性質を、初めから備えていたという事だ。

この発見は、驚くべきことだ、何故なら通常は、ウィルスというものは元々の宿主に最も高い親和性を示すもので、例えば新たに感染した人間よりも、元の宿主と考えられていたコウモリに高い親和性を持つと当然想定されていた。

通常ウィルスは新しい宿主に感染を広げる過程で、時間をかけて変異し、新しい宿主への親和性を増していく。
我々の研究はアウトブレイク初期の12月に採取された株に対して行われたので、SARSCov2蛋白が他のどの動物よりも人間に対し強く結合するというのは、予想外だった。」

人工ウィルス説が陰謀論と断じられていた2020年の夏、科学者たちは様々なアプローチで発生動物を突き止めようと努力するものの、予想外の結果を得ていた事が分かります。

同様の結果は同時期に複数の研究で発表されました。

今日まで中国では8万以上の動物の検査が行われました。SARSの時は4か月で特定終了した作業です。しかし、いまだに原因動物は特定できていません。

こうした事も、自然発生説を疑わせる原因の一つになっています。

※類似した内容の文献

Lamらは原料と生成物の熱力学的安定性の差ΔΔGから人間のACE2と動物のACE2を比較する計算方法で、ピプラニに近い結果を出しています。

Rodrigues, J. P. et al. Insights on cross-species transmission of SARS-CoV-2 from structural
modeling. bioRxiv, 2020.2006.2005.136861, doi:10.1101/2020.06.05.136861 (2020)

Spinelloは、SARS1と比較してSARSCov2に対して人間のACE2受容体が強く結合する事を示しました。

Spinello, A., Saltalamacchia, A. & Magistrato, A. Is the Rigidity of SARS-CoV-2 Spike ReceptorBinding Motif the Hallmark for Its Enhanced Infectivity? Insights from All-Atom Simulations. J Phys
Chem Lett 11, 4785-4790, doi:10.1021/acs.jpclett.0c01148 (2020).





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