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この4年間ドイツにいたという奇跡(2)

イギリスのシュタイナー学校の危機

私たちがイギリスを去ったのが2016年の夏のこと。その後、イギリスのシュタイナー学校は危機を迎えます。ある伝統校で問題が起こり、それがきっかけとなって教育監査機関にシュタイナー学校全体が目をつけられることになります。

イギリスではオフステッドという機関が、教育機関を定期的に監査して評価を下します。その評価はすべて公表され、一般の人たちが子どもの学校を選ぶときの資料にもなります。

イギリスのシュタイナー学校もオフステッドの監査を2年ごとくらいに受けており、私たちがいた2016年までは、どこのシュタイナー学校も高評価でした。

それが、オフステッドに目をつけられるようになってから、ほぼ全てのシュタイナー学校の評価が下がりました。下がったどころではありません。「改善しなければ強制的に閉校」という厳然たる「不合格」です。

確かに、シュタイナー学校は学校運営が甘いところがあります。校長を置かずに運営する方式なので「リーダーシップ」の項目は、いつも最低評価です。

そして、安全面や低学年の学習達成度なども。木登りできる木があったり、子供達が自由に入れる小川や池があったりするだけで安全面は失格だし、学校のまわりぐるっと塀でとりかこんでいなければ、これまた安全面で失格。小学校4、5年生まではゆっくり、じっくり学習を進めていくので、そのくらいの年齢までは、一般の学校の方が進んでいます。その後、ぐんっと進んで追い越すのですが、低学年の学習到達度が十分でないと低い評価をされます。

たしかに、改善すべきところもあるけれど、シュタイナー教育の思想に反することまでも無理やり強制させようとするのは、思想の自由、教育の自由に反するものです。

このきっかけになった伝統校は2017年に強制的に閉校させられました。

その他の学校も、オフステッドに言われたように「改善」するため、努力を重ねます。改善するための資金繰りに苦労して、閉校せざるをえなくなった学校もあります。

古巣ウィンストンズの危機

私たちがイギリスで関わっていたウィンストンズ・シュタイナー学校も、不合格の落胤を押されました。2年前は「優秀」だった評価が、突然「不合格」です。

その混迷は、私たちがドイツにきてから始まり、その様子を逐一、内部の友人たちから聞いていました。

苦しかった。悔しかった。腹が立った。オフステッドの不公平な評価とそのやり方に憤りました。

私たちはドイツにいたので、火の粉は飛んできません。でも、仲間たちはその中にいて苦しんでいる。安全な場所で見ていることしかできない悔しさ。一緒に戦ってあげられない悔しさと罪悪感。

苦しかった。

でも・・・・・・、渦中にいたら、私は完全に潰れていたと思うのです。この状況にいたらと想像するだけで、気が狂いそうです。自分にできる小さなことをして、あがいて、あばれて、それが報われないまま、ものすごいストレスをかかえて。

仲間たちには申し訳ないと思うけれど、私がイギリスで戦うことは私の使命ではなかったとも思います。戦っていたとしても、私がすることで状況を変えることはできなかった。

そして、私は、ネガティブな勢力に対抗するのが私の使命ではないとも思います。そういうの、すごく苦手分野です。私はもっと建設的な方法でシュタイナー教育を実践していくことで社会に貢献していく。適材適所で自分を生かしていくことで、一番、力を発揮できる。戦いは私を潰すだけ・・・。

2020年、ウィンストンズ閉校

戦いの努力も虚しく、2020年1月、ウィンストンズに手紙が届きます。学校閉鎖命令です。「明日から学校を閉鎖せよ」と。

シュタイナー学校関係者は、自らシュタイナー学校を選び、学費を払って子どもたちを通わせているのです。オフステッドに不合格にされても、シュタイナー教育を求め、学校生活を楽しんでいるたくさんの子どもたちがいるのです。その子どもたちから、大好きな学校と先生たちを奪ってしまった。シュタイナー教育を求めている人たちの、選択の自由を強制的に奪ってしまった。

愛するウィンストンズがなくなってしまった・・・。胸を引き裂かれるほどの悲しさでした。

これで、イギリスのシュタイナー学校6校が閉鎖になりました。

私たち家族が、イギリスに帰ることを決めた2週間後、EU離脱の数日前のことでした。


イギリスのシュタイナー学校の現状

シュタイナー学校の中でも、オフステッドの不合格を免れた学校がいくつかあります。前の記事でも書いたNZCSEを導入している学校です。NZCSEは評価基準がとてもはっきりしているため、オフステッドにも認められていて、私たちが今いる学校も、難なく合格することができました。

その状況を見て、それまでNZCSEを導入していなかったシュタイナー高校も、NZCSEへ切り替えました。今では、イギリスでは、一校をのぞく、全てのシュタイナー学校高等部がNZCSEをやっています。

オフステッドの「シュタイナー学校いじめ」は本当に腹がたちますが、この災禍があったからこそ、NZCSE導入に踏み切れたというのも事実だと思います。改革にはそのくらいの衝撃が必要だったのかもしれません。

とりあえず、こんな状況でNZCSE導入校は、オフステッド災禍を一山越えたように感じています。

オフステッドと縁を切る方法

私たちが今いる学校は、オフステッドと縁を切りました。オフステッドと縁を切るなんて、そんな手があったのか!・・・とびっくり。

イギリスには英国私立学校連盟というものがあります。王室、貴族の子どもたちが通うよう名だたる名門校が加入しています。その連盟独自の監査システムがあるため、オフステッドの監査は介入しません。というか、王室、貴族相手ですから、オフステッドは口を出せないのです。

連盟の監査は、教育思想は問いません。それぞれの学校の教育思想をもとに、教育活動がちゃんと行われているかということを問う監査だそうです。オフステッドのように一方的な教育観を強制するものではありません。

私たちが今いるシュタイナー学校は、そこに加盟しました。これでオフステッドの監査を受けることはもう金輪際ありません。本当に、オフステッドと縁をきったのです。もう教育の自由を脅かされることもないのです。(未来はわかりませんが、とりあえず。)

私たちがドイツにいたという奇跡

2017年からの混迷期は、2020年1月のウィンストンズ閉校で、大きな山を越えた気がしています。その期間、私たちはドイツに避難(!)して災禍を免れたという気もします。この絶妙なタイミングは奇跡としか思えません。運命的にイギリスを離れていたことは、大いなる力に導かれた気がするのです。

光が見えてきたイギリスに戻ることになったのもミラクル。


あー、いかん。
書きながら、オフステッドへの怒りと悔しさが蘇ってきて泣けてきた。










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