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昭和18年の中学生④

昭和18年に中学校へ入学した父が同級生と晩年作成した文集から

中学校へ入学したときが戦争中だったことから戦争の思い出が多いのですが、特に八月と言うことで「T氏」の思い出を載せたいと思います。


 桜よ、永遠に…

 昭和20年4月。

 連日の空襲で、首都圏は焦土と化していった。中学三年生の私は、勤労動員先の工場で、朝から晩まで機械作業に取り組んでいた。

 ある日の昼食時、担任のM先生が「明日、陸軍に入隊することになった」旨を話された。

 私たちは深い衝撃を受け言葉も出なかった。

 休憩室のある事務所の前に一本の桜の木があり、折から花びらが静かに散って行くのが窓越しに見えた。その部屋の片隅には旧式のオルガンがあって、先生はいつも昼食後に弾いてくださった。

 その日も話の後で、オルガンの前へ行き、弾き始めた。

 曲は「花」(滝廉太郎)。恐らく死を覚悟した自らへのレクイエムだったのだろう。

 輸送船ごと南の海に散ったことを知らされたのは敗戦後の秋であった。

 いまも桜の季節にはあの日の思い出とともに「さくらよ、永遠なれ!」と、祈らずにはいられない。平和への切なる願いを込めて。


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