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怖くて怖くて絵が描けないのに、パステルが好き、の話③

あれからかなり時間が経った。

大人になった、というより、歳をとった。

経験は人を助く。意思とは逆方向に全力で走る、ということはもうほぼない気がする。

でも、絵を描こうと思うと全力で逃げたくなる。

好き、は、怖いんだ。

私の本質なのかもしれない。



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幼稚園くらいから小学校中学年くらいまで、引っ越しをして転校するまで絵を習っていたけど、ちゃんと勉強したか、と言われると分からない。

昔からパステルやクレヨンが好きだった。

指でなぞったり混ぜたりぼかしたり出来るのが1番好きなポイントで、でも水彩や油絵でそれをやってめちゃくちゃ怒られたこともあった。

なんの疑いもなく画家になると思っていたけど、中2の中盤くらいで画家という職業ってほぼ無いんだって知ったら徐々に描けなくなって、高校に入ったぐらいでもうパッタリ描けなくなった。

なんとなく、想像力が枯渇したんだな、と思った。絵を描きたいなら選択肢なんていくらでもあったのに、デザイナー・アーティスト・クリエイター、もうアートという単語も全部、なんだかしっくりこなかった。

自分とは掛け離れてる世界だな、と思った。

絵を描くのが好き、と言うのを辞めた。

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それからかなり長い間、何も描かなかった。

でも、描いてもいないのに、なんとなく自分って絵を描く人っていうアイデンティティだけが残りつづけていて、過去にしがみついてるような、依存してるような、スッキリしない心持ちで。

だからずっと思い出さないようにしていた。

10年以上そうやって過ごした。

描かなければ、そっちを向かなければ、欲しいと思わなければ

上手く描けなかったって落胆することもないし、誰かと比べて才能ないとか絶望したり、評価されなくて落ち込んだりすることもない。

だからさ、ずっと心のどこかにあるのは、他に趣味と呼べるものがないからなんだよ、別段好きなわけじゃない

好きじゃない、好きじゃない。

好きなら放っておいたって毎日やるでしょう?

思春期やら20代なんて勢いがあるもの、好きならなおさらそっちに向かっていくでしょう?

画材なんてもう奥底にしまいっぱなしでさぁ、もうどこにしまったかなんて分かんないんだよ。

だから違うの。そうそう。

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あるとき、すっごく久しぶりにパステルで絵を描いた。

決心、という程じゃなくて、その時は半年位無職で毎日ゴロゴロしてて、なんかまぁ死ぬほど暇だったから、ぐらいの感じだった。

もう最初だけで全然続かない可能性ありだからなー、なんて沢山あらかじめ言い訳して、でも最低限の色のセットじゃ物足りなく感じて、お店でかなりの時間悩んで24色組を買った。

描くものがなくて、モチーフ?テーマ?何にも思いつかなくて、とりあえず練習がてら、右利きだから余ってるほうの左手を書いた。

そしたら、急に時間の速度が早くなって、堰を切ったようになんかよく分からない興奮みたいのが湧き上がってきて、あっという間に1枚描いた。

かけたぁー、と思った。

手、止まんないでかけた。

それだけですごい満足感だった。

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あれから数年経つけど、未だに怖い。

実は1年に数枚しかかけない。

友達に「巨匠のペース」と言われたけど、カッコつけてるとか巨匠ぶってるとかそんなんじゃなくて、ひたすら怖くて怖くて仕方ないんだよね。

思い入れのあるものを描こうと試みて、もし思いえがいてる通りに描けなかったら立ち直れなくなる気がして、あーいうのがかきたい・こういうのがかきたいって頭の中で何枚も何枚もかいて、実際にパステルを手に取るまで何ヶ月もかかる。

でも、描くと思う。

年に数枚でも、ずっと描きたい。


彼の事も、いい恋か悪い恋か、正しいか間違ってるか、いい人だったかどうかはさておき、本当に好きだったな、と思う。


kayo sean(カヨ ショーン)

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