大好きな人

今でも大好きな人がいる。

その人はずっと私の中にいて、何年経っても消えることはない。

私が一番苦しかったころ
私がギリギリで生きていたころに側にいてくれた人。

あの時、
その人がいてくれたから
私は生き延びることができたし、
私を一人でしないでくれたから
死なずにいられたのだと思う。

その人とは6年くらい一緒にいた。

私の人生で唯一「元彼」と呼んでいる人。

他に付き合った人がいないわけではない。
だけど、なぜか私の中で「彼氏」はその人だけだという感覚。


「じゃあ他の人はなに?」
と聞かれることがある。

「うーん、、、
ちょっとの間一緒にいて、ご飯食べたりセックスしたりした人?」
そんな感じで答える。

私のことなのに、なぜか語尾が上がる。


彼は私が東京で過ごした時間の半分くらいを占めていて、
人生で彼ほど私の側にいた男の人は他にいない。

同い年のその彼は、それまでの私の常識がまったく通用しない人だった。

「かよに相応しいのは俺だけ。
俺くらいの器じゃないと扱えない。
俺以外の男は無理。」

よくそう言っていた。

そして、
「そんなわけないじゃん!誰でも大丈夫だし!」という私を
鼻で笑ってあしらう。

彼の考え方や生き方は、
それまでの私の周りにいる人たちとまったく違っていて、
刺激的ですごく学びになった。

同時に、傷つくこともたくさんあった。
不安になったり、
嫉妬に苦しんだり、
それまでに感じたことのない感情もたくさん経験した。

たくさん怒ったし、
たくさん、
たくさん泣いた。


”私全開”で一緒にいれた唯一の人。


別れるまで、
ほほ毎日一緒のベッドで寝て、
ほぼ毎日一緒に晩御飯を食べた。

何度も別れ、
何度もよりを戻したのも彼だけ。


私は結婚がしたくて、
彼は結婚はしたくなくて、

「結婚」という安心が欲しかった私は「結婚相手」を探すことにして、
私のものを自分の家に持って帰った。

彼がタイに旅行に行っている間に。

今考えればひどい話だ。


その時の別れの後、二度と彼の元に戻ることはなくて、
私はいまだに一人でいる。

あの時、
「今回は本気なんだね。いつもと違う。」って友達に言われたっけ。

結婚するために彼から離れたのに、
なぜかまだ一人だ。



彼の家を出てしばらくして、
私の家に大きな段ボール箱が届いた。

蓋を開けると、たくさんの雑誌が入っていた。

それは、彼が読み終わった雑誌。
ヤングジャンプとかヤングマガジンとか、そういうやつ。

彼が読み終わったマンガを私は読んでいた。
お風呂に入るときの私の時間つぶし。


「いらないよ。うち、お風呂ないし。」
そうつぶやいて、
腹立たしいとさえ思うのに、涙が溢れてくる。

箱を開けた途端、
彼の寂しさとか、心細さとか、
そういう悲しい思いがぶわっと溢れ出て、

もう胸がキューっとなって、
どんどん締め付けられて、

悲しくて、寂しくて、

「戻ってきて」
そう言われているようで苦しかった。

小さな子供が言葉にならない想いをぶつけてきているような、
そんな感覚で、

小さな子供みたいな彼が、泣いて叫んでいるようで、
それは、私の胸を締め付けて、
苦しくて、苦しくて、
息もできずにただただ涙が溢れた。

私は、
ゴミを送ってきた。
と腹を立てながら、
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
と、泣きながら謝っていた。

もういらない雑誌たちに向かって。



あの頃、私は愛が欲しくてたまらなかった。
今ならそれがわかる。

安心が欲しくて、
愛されることばかり望んでいた。

愛や安心がどんなものかもわからないままに、
ただただ、
欲しがっていた。


今、彼になにを伝えれば、
私は私を赦せるだろう。



一緒にいたころのある日、彼が私に言った。

「かよが欲しいのはあったかい家庭。それを一番欲しがっている」


「は?突然なに言ってんの?」

そう思った。


「だったら結婚してくれればいいのに。」
そうも思った。


あの頃の私は、
”安心”が喉から手が出るほど欲しくて、
それが”結婚すること”だった。


そんな私に、
「かよの欲しいものは結婚じゃない。逃げの結婚はよくない。」
と彼はいった。


今ならあの時の彼の言葉の意味がわかる。


同時に、
あの時の「私の欲しいもの」は、彼自身の欲しいものだったのかもしれないとも思う。
私を通して自分を観ていたのではないだろうか。


彼もまた、ただただあったかい家庭が欲しかった。
それが一番欲しいものだった。

そんな風に思う。


当時、すごく私が慕っていた女性からこんなことを言われた。

「裸の時はやぶれた毛布でも暖かいのよ。」

普段からいろんなことを見透かすその女性は、彼をやぶれた毛布に例えた。


彼と出逢った時の私は裸だったから、
やぶれた毛布でもあたたかいと感じたのだ。と。
だから、元気になってきたら上質のやぶれていない毛布が欲しくなるのよ。とも。


でも、やぶれた毛布は彼だけではなかったんだよね。

私もやぶれた毛布で、
だから、彼をちゃんとあたためることができなかったのだと思う。


私たちは、やぶれた毛布を持ち寄って
お互いをあたためていた。


でも、
それはそれで
とてもあったかかったんだよ。


私は「ひだまりの詩」を聞くと、今でも落涙する。
速攻、涙が溢れ出る。

悲しくなるわけでも、
泣きたいわけではないのに、
涙がただただ流れて、そして彼の顔が浮かぶ。


ひだまりだったから。


私を一人にしないでくれた。

彼がいたから生き延びれた。


彼はわたしのひだまり。


あの時も
これからも。


わたしの大好きな人。

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