見出し画像

『石狩湾硯海岸へ接近中』の全文公開 連載第76回 第62章 東京を350万人都市に (un intermezzo)

(こほん。ここでちょっと真面目な独白を挿入させてください。すぐに本筋に戻ります)。
 
 何年も住んでいた元都民としてだけでなく、中央集権のこの国の一国民としても、この深い愛着を覚える東京についてひとつ希望したいことがある。
 憲法改正を伴わざるを得ないだろうが、日本を連邦制に変えて各構成地方の自由度を引き上げるのと並んで、東京都の人口を4分の1以下に減らすことはできないだろうか。巨大地震発生の可能性が著しく低いと予想されている複数の地方に税制その他で人口を振り分けるのである。最も望ましい手法は、憧れと自発的決意による移住である。しかも、嫌々ながら「都落ち」させられるのではなく、それぞれの移住先でこそ創造できる職業・産業に従事することにより、都民時代と変わらない、あるいはさらに経済的にも恵まれた生き方を追求するのである。日常的に各種のスポーツに触れる機会も地方でこそ増えるだろう。
 辺地に人を呼び、定住させる上で、収蔵数の極端に多い巨大図書館の設置も不可欠である。地元民、近隣住民だけでなく、長期休暇を取りにやって来ている滞在者も自由に利用できるようにすればいい。どのような利用者も、館内で毎日のようにゆったりと読書にふけることができるようになるだろう。森の中、湖や川の畔、草原のまっただ中、丘の斜面等々、適地は数多くある。本の閲覧、貸し出しだけでなく、生涯学習、起業の準備にも役立つ自習室、対話可能室も設けるべきであろう。フィンランドの成功例には学ぶべき点が多々ある。付近の児童、生徒、学生の学力向上にも資するだろう。カフェ、レストランも併設すればライブラリーの魅力は一層高まる。
 被災せずに生き残った地域のどこかに、緊急避難的に救国臨時首都を設けることになるだろう。その選定・建設は迅速に行わなければならないが、そのおそらく一世代30年程度の遷都期間に、震災避難拠点に使える100ヘクタールを超える大公園を十数箇所新設することを基本とする首都再建を成し遂げるのだ。新東京は、かつて15区から現在の23区に仕切り直しをしたように、3県の隣接地帯を統合して23区から35区ぐらいに拡大するだろう。
 通訳案内士の中には4か国語で国家試験に合格している者さえいるが、以前、某観光地で、世田谷住まいを自慢していた英語でしか免許を取っていない通訳ガイドに23区内の人口が350万人ぐらいだったのはいつぐらいですか、と尋ねてみた。すると、その相手は回答できなかった。三多摩を除く都の人口がこの程度にまで落ち込んでいたのが1946年前後だった。件の日本人ガイドは、地元の都についてのこの程度の基礎知識が欠けているなら、旅行代理店からオファーがあっても、まだトレーニングが足りていませんから、と仕事を当分の間辞退すべきではなかったのか。人口動態統計の数値は、概数で構わないが、少なくとも全国20都市程度については暗記していなければ、とっさの質問に対応できない。
 歴史上、各国の例を仄聞するに、ベルリンにしても、台北にしても、世界中の主要都市でこの大雑把に見て300万人ないし350万人前後こそが、過剰人口・過密を避けながら大都市の総合的な能力・魅力を発揮できる最適解の規模のように思われるのである。特にベルリンは素晴らしい。Tiergartenは、上がガラスの塔になっている国会議事堂など首都機能の中枢機関群に隣接しており、ジャンボ機が離発着できる空港をほぼすっぽり入れられるだけの長径と面積がある。この都心林を維持しているドイツ国民の断固たる決意は称賛されるべきものである。
 そこまで大幅に人を減らすことができれば、200ヘクタール、300ヘクタールを超える広い芝生と大木の大公園を何カ所も新設できるし、すべての大学から保育園までの敷地を大幅に拡大することも可能である。諸外国の例を見るまでもなく、そもそも大都市には贅沢過ぎるほどの緑の空間が不可欠である。災害に弱い東京の場合にはなおさらである。高層ビルの校舎もいいが、それ以上に、遺伝子の命ずるままに育っていく無剪定の大木群が学生を育む。それだけの植物群を数世紀も育てるためには広い敷地が不可欠である。日光の杉並木は約400年である。身近に樹齢200年もの大木が数本あるだけでも、生物の驚異的な生命力に対する畏敬の念を育てることができる。

(ここから本筋に戻ります。ピットイン終了。ビューン)。

第63章 医学部に入り、ヨット部入部 https://note.com/kayatan555/n/ne9fbbf236790 に続く。(全175章まであります)。

This is copyrighted material. Copyright (C) 2018-2024 by 茅部鍛沈 Kayabe Tanchin « Kayatán », 新 壽春 Atarashi Toshiharu. Sapporo, Hokkaido, Japan. 石狩湾硯海岸へ接近中は、新 壽春の登録商標です。All rights reserved. Tous droits réservés.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?