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向かいのアパートのおじいちゃんの話。

どうも。

初芝かやのです。


皆さんは、緊急事態宣言が出ていたあの1か月半の間何をしていましたか?

私はものすごーーく落ち込んでいました。

というのも、4月に上演予定だった公演が小屋入り2日前に延期が決定したのです。ほんの数十分前まで、上演のために通し稽古をしていたのに。

「でも延期でしょ?」と思う方がいるかもしれません。

私は、”今”舞台に立てない、この作品を届けることができないのが悔しかったのです。演劇は不要不急だと言われている中で、そんなことはない。演劇は生きるために必要なものなのだと証明したかった。

舞台は生ものです。時期が変われば、場所が変われば、人が変われば、同じ物語も全く別物になると思っています。

延期になったその作品は先日無事に幕をあけ、千秋楽まで終えることができましたが、4月のものとは別物だったと思っています。

おっと。つい熱くなってしまいました。今回お話ししたいのは、この話ではなく、そんなこんなでどん底から始まってしまった私のおうち時間の中で経験した、素敵な出逢いのお話です。


さて、まあ、そんなことがあって、4月の予定が今までみたことないくらい真っ白になり、演劇の、己の無力さを目の当たりにしてしばらく落ち込んでいたのですが……

しばらく経ってようやっと、いつまでもそうはしていられない。何か自分にプラスになることをしなくてはと思うようになりました。

うじうじしている自分に嫌気がさしたのだと思います。


そうして新しく始めたことの1つが”ギター”でした。

実は高校生の時にお年玉でアコギを買って少し練習していたりもしたのですが、結局全然弾けるようにならないまま早数年……。

時間はたくさんあるし、緊急事態宣言が明けてライブができるようになったときに、弾き語りができたらと思ったのです。

ちょうどそんなタイミングでエレアコをいただく機会があって、「神様から弾けって言われてるなあ。」なんて感じたりもしたのでした。

困ったのは練習場所です。
自分の部屋は壁が薄いのでお隣さんに文句を言われそう。スタジオはどこもやっていない……。考えた末、家から徒歩30秒の公園で練習をすることにしました。

アコギの音って響くし、初心者の私の演奏なんてへたくそで聴けたものではなかったと思います。

「いつ苦情を言われてもおかしくないなあ。」なんて思いながら練習を続けました。

正直私は毎日びくびくしていたのです。もし本当に苦情を言われたらどうしよう。ただでさえ落ち込んでいるのに、これ以上人からマイナスな言葉をかけられるのはなんだかしんどいなあ……。

そんなある日、目に入ったのはこちらにむかって歩いてくるおじいちゃんの姿。

「あー。とうとうか。ちゃんと謝ろう。練習場所も探さないと。」と覚悟を決めたのですが、かけられたのはとても温かい言葉でした。

「こんにちは。いっつも見てるんだよ~。頑張ってね!」

もう、本当に本当に嬉しくて。落ち込み気味だった心に、温かいものがぶわ~~っと拡がっていくのを感じました。

それから私がギターの練習をしていると、声をかけてくれて、差し入れをいただくようになりました。

少しずつ会話を重ね、本業は役者だということ、おじいちゃんの家は公園の向かいのアパートで、ベランダから公園がよく見えること、実は夜に木刀を振っている姿も見られていたことなどをお話ししました。そして話の最後には必ず「頑張ってね。」「応援してるからね。」と温かい言葉をかけてくれるのでした。

いつの間にか、そのおじいちゃんに会うことが楽しみになっている自分がいました。ギターを練習して、ふとアパートに目をやるとベランダでニコニコしながら聴いてくれているおじいちゃんがいる。お互いがお互いに気づいて笑顔で手を振り合う。そんな毎日が幸せだったのです。

おじいちゃんは不思議なことに、ほとんど音なんてしないはずの夜の素振りの時も、よくベランダから見ていてくれているのでした。

ギターも素振りもまだまだへたくそで見せられたもんじゃないので正直恥ずかしかったのですが、自分の頑張りを見ていてくれて、肯定してくれて、応援してくれる人がいるというのは、私にとって大きな大きな心の支えだったのです。

緊急事態宣言が明けて、私が毎日外に出るようになってから会える頻度はがくんと減りました。そのことを「寂しくなるね。」と言ってくれたこと。久しぶりにギターの練習をしていた時に「やっと会えた!」とたくさんの差し入れをもって会いに来てくれたこと。
そして、「いっつも見てるんだよ~」と声をかけてくれたあの日を、私は一生忘れないと思います。


私は本当に、出会いに恵まれた人間だなあと思います。

出会うべき時に、出会うべき人が、必ずそばにいてくれるような気がするのです。

落ち込んで、素敵なおじいちゃんに出会って、元気になって。

この自粛期間は、自分と向き合う、私にとって大切な時間になったと思っています。


やっぱり私は、明るくて前向きな私が好き。

みんなに笑顔を与える太陽のような人でありたいのです。


おちこんだりもしたけれど、私はとってもとっても、げんきです。





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