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子育て中に思い出すひと

子供を産んでからよく思い出す人がいる。高校時代の家庭科の先生である。

あんまり人気のない先生だった。親しみやすさがなくて、怖いって程じゃないけれどちょっと冷たい感じのする先生。
JKに全く媚びないので、特に一軍女子からは好かれていなかった気がする。

家庭科の授業って、中学までは「裁縫!」「調理実習!」「ほんのちょっとの座学」って感じだった記憶。
でもうちの高校の家庭科の授業では、「育児」の学びにわりと時間が割かれていた。(女子校だったからかな。)

家庭科の先生が教えてくれる「育児」は、生々しかった。
先生が教えてくれたこと。例えば、

・子供が泣き止まなくて頭がおかしくなりそうだったら、安全な場所に置いて別室に行くべき。子供を1人にすることよりも、イライラしてひどく手をあげてしまうことの方がよっぽど危険。

・子供が生まれた友達に「遊びに来てほしい」と誘われたら、「でも赤ちゃんがいる家庭に行くのって迷惑だよな〜…」とか考えずにとりあえず行くべき。行ってあげてほしい。

・一日中、大人の言葉が通じない赤ちゃんと2人きりなのは想像以上に過酷なこと。旦那さんが帰ったらとにかく会話をするべし。

などなど。

いや、生々しくないですか?

高校生のときの私は、「子育て」ってもっと明るいカラーで彩られているものだと思っていた。赤ちゃんって可愛いし、喋ったとか歩いたとかの発達を見るのって嬉しいだろうし。
それに恥ずかしながら、働いたことも育児をしたこともないくせに、子育てよりも仕事の方が圧倒的重労働だと思っていた。

だけどそれに比べて、先生が伝えてくる「子育て」の、なんとジメジメ辛そうなことか。しかも教えがやけにリアルで具体的だ。家に帰って、母にこの話をした。子供たちをほぼワンオペで育てていた母は、当たり前みたいな顔で頷いた。

「そうだよ?」

子供と一日中ふたりきりなのって、楽勝ではないよ。辛いこともあるよ。大人と話したくなるもんだよ。頭おかしくなるわ!ってこと、全然あるよ。

マジか、という感じだった。私の育児に対する見方は、あの先生の授業で確実に変わったと思う。

子供を産んで、先生を思い出すことがある。
やっぱりアレは、生きた授業だったな。先生自身と先生の周りの人の経験から生み出された教訓を伝えていたんだろうな。
まだ女子高生だった私たち。その向こう側の姿、数年後に母になる私たちに向けての授業だったんだろうな。

子供と一日中ふたりきり、なるほど確かに楽勝じゃない。辛いこともある。大人と話したくなることもある。帰ってきた夫に縋りついたこともある。

でも、楽しいこともたくさんある。可愛くて仕方なくて、最近はあやすと笑ってくれることが嬉しい。たくさん笑わせたいからこっちが先に笑顔になってしまう。

あの家庭科の先生、正直顔もあまり覚えていない。お名前も忘れてしまった。
でも、教えてくれたことは覚えている。いつか子供にイライラしてしょうがなくなったら、別室で落ち着こうと思う。産後の友達に誘われたら会いに行こうと思う。夫とはたくさん話そうと思う。

先生、お元気かな。もう退職間近なころだろうか。
高校生の私にあの授業をしてくれて、ありがとうございました。

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