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「タコピーの原罪」はキュートアグレッションなのか?

「タコピーの原罪」とは

「タコピーの原罪」とは現在少年ジャンプ+で連載中の漫画作品で、この記事を書いている段階で7話まで公開されています。
「無垢で残酷な小学生ドラマ」というキャッチコピーの通り、1話から衝撃的な展開の連続で、連載当初からネットでは話題になっていました。

「タコピーの原罪」の詳細な内容については他のレビューでも様々紹介されていますので、ここでは「タコピーの原罪」がなぜ人々を惹きつけるのか、ちょっと考察してみようと思います。

7話までのネタバレを含みますのでご注意ください。

創作物に感じるシャーデンフロイデとキュートアグレッション

「タコピーの原罪」はハッピー星から地球にきたタコピーと、どうやら学校で壮絶ないじめを受けているらしいしずかちゃんを軸に物語が動いていきます。
しかしながら第一話では、しずかちゃんの自殺という壮絶なオチで次回に続きます。
ここから果たしてどうなるのかと思いきや、ドラえもんのようなオーバーテクノロジーでタコピーは時間を巻き戻し、しずかちゃんを死の運命から救おうとする流れに向かいます。

ここで、おそらく読者は思ったのではないでしょうか。
不幸を知らないタコピーと不幸しか知らないしずかちゃんの価値観や認識の違いはどうあがいても埋まることがない。
きっとタコピーが何をしようとも、しずかちゃんが幸せになることはないし、タコピーがそれを理解することもない。

この物語は、読者が一歩引いた安全地帯から、そんな彼らの絶望を眺めて楽しむ物語なのではないか、と。

そもそも我々はなぜ、誰かがつらい目にあったり不幸な目に合う作品を好き好んで読んだりするのでしょうか。
心理学的にはこの誰かが不幸な目にあったときに快感を感じることを「シャーデンフロイデ」といいます。


また、人間にはかわいいものを見ると、愛でたくなると同時に傷つけたくなる、攻撃したくなるという衝動も備わっています。いわゆるキュートアグレッションというやつです。
「可哀そう」は「かわいい」。
これは決して特殊な性癖ではなく、世の中にはかわいい動物や人間たちがかわいそうな目にあう作品がたくさんあるのです。
それは何故か?
我々がそれを望んでいるからです。

人間は社会的立場、高い理性によってその衝動を抑えています。現実的に赤ちゃんや動物などを虐待することは許されますが、創作物の中でなら許される。
しかし、我々はその高い倫理観ゆえに創作物の中ですら、嗜虐性を発揮することを嫌悪します。だから、たいてい彼らがひどい目に合うのは理不尽な外的要因であったり、明確な適役の存在ありきであり、決して漫画内の主人公が積極的に加害的行動をとるわけではありません。

なので、我々は我々の心すらも騙しているのではないでしょうか。
こんなにかわいい彼らがひどい目に合うのは許せない、何とか幸せになってほしいと。

読者の嗜虐心を利用した居心地の悪さ

「タコピーの原罪」の物語が大きく動き出すのは第4話です。
図らずともタコピーの行動により、物語上はじめてしずかちゃんの顔に笑顔がみられます。

これがこの作品の意地が悪い所で、前のエピソードでしずかちゃんをいじめていたまりなちゃんの家庭の話を描き、決して許されない加害者であるはずの彼女にも同情の余地があることを読者は知ってしまっているわけです。

素直にしずかちゃんの幸せを喜べないからこそ感じるなんとも言えない居心地の悪さ。

この話で物語の最大の推進力であったはずの、「しずかちゃんの笑顔をみること」という目的は最悪の形で達成された。そして同時に彼女は主役の座を降り、読者の嗜虐対象からも逃れたのです。

実はキュートアグレッションの対象がしずかちゃんではなく、タコピーにシフトしていくのがこの漫画のうまい所。
幸せという概念しか知らず、人間というものの感情を理解できなかったタコピーが、痛みや悲しみを通して徐々に人間世界のどす黒い感情に飲み込まれていく…。

「ハンターハンター」でいうならば、「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じている可愛い女のコに
無修正のポルノをつきつける時を想像する様な下卑た快感さ。

これも一種の精神的キュートアグレッションと言えるでしょう。

ただ、これまでの流れを見ていると今後も素直に読者の予想通りの展開になるとは考えにくく、人間=読者の毒々しい本性を曝け出していくような話になるのではないかと思います。

「原罪」とは何か

ところで「タコピーの原罪」の「原罪」って何でしょうね。
4話のラストで見開きでタイトルを出してきたのは鳥肌ものでしたが、あのタコピーの行為が「原罪」だというのは、おそらくミスリードではないかと思います。

そもそも「原罪」とはキリスト教において、アダムとエヴァが神の言いつけに背いて知恵の実を食べたことを指します。
キリスト教では原罪を、キリストが十字架の磔によって処刑されることによって償ったと解釈されています。

人類最初に殺人を犯したのはアダムとエヴァの息子カインですが、それは原罪の解釈とは関係ありません。

であるならば、タコピーの「原罪」もあの行為そのものではなく、もっと根源的な存在そのものに関わるものであるはずです。

その「原罪」が何なのか・・7話時点ではまだ明らかにされていませんが、タコピーがなぜか母星へ帰る手段を思い出せない、などあからさまな伏線が用意されており、それらがヒントになりそうです。

今後の展開が楽しみですね。




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