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夏の名残り

あんなにうるさかった蝉の声も

秋の虫の勢力に押され

何匹鳴いているのか数えられるくらいに少なくなったきた


夜は完全に秋虫の世界


かろうじて晴天の昼の暑さに

冷たい飲み物を欲するくらい


それでもその空を見上げれば

どこまでも澄み切った青空にもう夏の色はない


もう間もなく消えようとしている夏の空間


道にひっくり返った蝉の亡骸も

茶色い羽根ではなく

透明な羽のもしか見つけられない


この頃の夏の暑さには辟易するけれど

いなくなればなったで淋しくもある


また来年会おうね

と手を振る

海辺で会った名も知らないあの子みたい


一緒に作った砂の城は

波に消されてもうない


一緒に食べたアイスの当たり棒だけが

右のポケットに入ったままだ


来年でも引き換えてくれるだろうか


ぼんやりした陽が沈む水平線を

頭の中で想像する


どこかの家から魚を焼く匂い


長くなった影を見ながら家路に急ぐ

半袖の上にパーカーを羽織って



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