#4 右肩上がりすぎて

「あおゆず」を通して出来た農家さんのつながりや、亞紀さんのような東洋医学や漢方などの考えに触れたことによって、ミドリカフェの飲食メニューは、徐々にグレードが高まっていった。
旬のものを食べる大切さや薬味の意味、食べ合わせの理由など、日本の家庭料理である和食は、実は「薬膳」そのものだという理論に、奥さんは深く納得したらしく、メニュー・コンセプトも和食中心で旬の食材を売りにすることになった。
当時、若いバイト・スタッフが多かったこともあって、そのコンセプトを共有するためのミーティングや勉強会、試作を繰り返し、お客さんにも理解してもらえるような提供の仕方を考えた。
特に季節の変わり目に提供していた「養生プレート」は大変好評で、その後のミドリカフェの飲食メニューの礎となった。
春は眠っていた身体を優しく目覚めさせるためのメニュー、夏は疲労回復と元気が出るようなメニュー、秋は乾燥から身を守り、旬の食材をふんだんに使ったメニュー、冬は身体を温めるようなメニューなど、「薬膳理論」って難しそうだと思っていた僕にも分かりやすいメニュー構成になっていた。
何故その季節にその野菜が育っているのか、実は人の身体のリズムと密接な関係があるのだと気づかせてくれたのは本当に面白かったな。
結婚する前の僕の食生活は、そんな理論を全く度外視した、好きなときに好きなものだけ食べるというまさに自殺行為そのものだったわけで、よくそんな男がこんなカフェを手掛けるようになったなとか思うこともあるのだけど、結局人間って振り子のようにあちこち振り切ることで中間を保って生きていけるのだ、というよく分からない自分自身の哲学はそこから生まれたと言っても良い。
だから、飲食メニューも「いかにも(エシカルに)」という路線を追求するより、今風に、オシャレに、といった点も大切にした。
いわゆるミドリカフェらしさは、そんなところから生まれた。
そして薬膳といえば、忘れてはいけないのが、幻の「薬膳カレー」の登場だ。奥さんが試行錯誤して作ったこのカレー、「幻の」とつけているのは、その手間数や時間のかかり具合(3日間はかかる!)が凄かったため、短期間で提供終了になってしまったのが理由なのだけど、これが味もまた「幻の」と言いたくなるような美味しさで、カレーやコーヒー通のお客さんたちの舌をも唸らせた。いつかまた食べたいと時々奥さんに言っているが、提供終了以来かれこれ10年以上食べれていない。

ここから先は

6,727字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?