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慧音のひとり言ーレミゼを語る④ー

今日は午後中本を書いてました、慧音です。さて、本日は第四回、プロローグの最後の曲「What Have I Done?」について語っていきます。

What Have I Done?(Valjean's Soliloquy)ーーヴァルジャンの独白

「ヴァルジャンの独白」は、司教によって乱された心の内を語り、善い人として生まれ変わろう、と決意する歌です。

まずは曲を通して、10th、25th、映画版の比較をしてみましょうか。ミュージカル版は映像がないのでちょっと省略。

映画版は、ヒュー・ジャックマン始めとするキャストの皆様がBackstageで言っているように、まず歌をリアルタイムで演技と共に撮り、それにオーケストラが合わせるという非常に珍しい形で撮影されています。なので、テンポに揺れがある。それによって、ヴァルジャンの葛藤というか、迷いというか、そういう揺れ動く感情がよく表されているなぁと。映画ならではだよね。あとは、この映画全編通してなんですけど、カメラが手持ちなんですよね。だから、画角も揺れる。とても良い。レミゼは割と感情の揺れ動きとかが多い作品だと思うので、トム・フーパー監督との相性が良かったのかもな、と思います。

25th。アルフィー・ヴァルジャン。さすがオペラ歌手って感じの高音ですね。所々叫ぶように歌ったり、セリフみたいに歌ったり、そういうのが大好きです。「I MISSED IT twenty long years ago」とか。「THEY GAVE me a number and MURDERED Valjean」とか。「HATED ME!」とか。そのほかにもいっぱい。
25thはコンサートですけど、全体的にちゃんとミュージカル版の振りとか動きを取り入れて演じてくださるのが(若干滑稽だったりもするのだけれど)高ポイントです。これで日本語字幕が日本語歌詞(所々対訳)じゃなければなぁ……(しかもたまに送るタイミング間違えてる)ちゃんと対訳を書いてくれればいいのに。
一段落歌い終わって「パパパパーン」のところで、ちゃんとどこかに行ってしまおうとしてやっぱり留まる、っていう動きをやってくれているのが嬉しい。ここの振りの何が好きって、行こうとして止まる時に後ろ向いてるから表情がこちらからは見えないんですよね。背中で語る葛藤。好き。

そして最後は10th。コルム・ヴァルジャンはアルフィー・ヴァルジャンの後に聞くとちょっとさすがにお歳を感じてしまいますが。高音はさすがと言うべきか。初演ヴァルジャンがコルムだったから「Bring Him Home」が生まれたという話を聞いたことがあります。それくらい綺麗な高音を出すテノール歌手です彼は。
そうそう、昨日書き忘れたんですが、10th司教の「But remenber 〜」からちょっと歌い方が力強くなるのが好きポイントです。あと、巻き舌。
コルム・ヴァルジャンの歌い方で好きなのは、フォールですかね。わかります? 言葉尻でちょっと音程を下げるんですよ。これがね、良い。
あとはもう、さっきも書きましたけど、高音がやばい。「Jean Valjean is nothing now. Another story must begin!」がね、本当にすごい。語彙力がなくなった。なんていうんだろう、本当に、決意というか、もう俺はこう生きるしかないんだ、こう生きるって決めたんだ、っていうのが表れている歌い方だなあと感じます。

さて、比較が終わったところで今度は曲自体について。この曲は僕の中で一、二を争う名曲なんです。歌詞も良い曲も良い。

まずもって歌い出しが「俺は何をした? 主よ、俺はなんということをしたんだ?」ですよ。もうそれだけでグッとくる。

コソ泥になり果て、逃げる犬になり果て、
そしてこんな遠くまで堕ちたか、そして堕ちたのは遥か昔だったか(もう手遅れか)
誰も聞かぬ闇の中であげる憎しみの叫び以外何も残らず
今俺は季節の変わり目(人生の分かれ道)に立っている

ここでもうさ、彼の過ごしてきた年月というか、見えるじゃないですか、自分の価値観が今崩されようとしてて。すごく辛い。そんで続きが、

他に行く道もあったのかも知れぬ、だが20年も昔に俺は見失った
俺の人生は決して勝つことのない戦いだった
奴らは俺に番号を与え、「ヴァルジャン」を殺した
俺を鎖に繋いで死に至らしめた
たった一口のパンを盗んだ罪で

もうさ、もしももう少し彼が裕福であったなら、って考えてしまいません? よくよく歌詞を聞いてるとだんだん自分の罪を軽くしていってるんですけどね、ヴァルジャンは。Work Songでは一つのパンって言ってたのに一口のパンになりました。まあそこは置いておいて。彼にとって、逮捕されて徒刑場に繋がれたことは今までのヴァルジャンを「殺した」というほど価値観を大いに歪めた出来事だったわけです。
ここで彼は今まで客席に向かって歌っていたのに踵を返して去ろうとします。でも、「パパパパーン」が多分司教を表しているんですね、眩しさに目が眩むように、立ちすくみ、後退ります。そしてまた葛藤していくわけです。

なぜ俺は彼に許したのだ、俺の魂に触れて愛を教えることを?
彼は俺を他の奴らと同じように扱った
彼は俺を信頼し、彼は俺を兄弟と呼んだ
彼が天上の神に(救いを)要求した俺の命
そんなことがあり得るのか?
俺は世界を憎むようになった、そしてその世界はいつも俺を憎んでいた

戸惑ってますよ、ヴァルジャン。自分なんて救われるはずがないと、どうせ地獄落ちだと、きっとヴァルジャンはそう思っていたんでしょうね。でも、ミリエル司教は彼のために許しを乞うた。
最後の一文、英語歌詞だと「For I had come to hate the world. This world that always hated me.」になってて、「俺が世界を憎むようになったから世界はいつも俺を憎んでいた」っていう→の因果関係みたいなんですけど、日本語歌詞だと「憎まれた俺は この世を憎んだ」で←の因果関係っぽいんですよね。ここ、どうなんでしょう。有識者求む。

目には目を!
心を石に変えよ!
これが俺の生きてきた全て!
これが俺の知っている全てだ!

ハンムラビ法典! やられたら同じだけやり返せ、何も感じぬよう心を閉ざせ、それが俺の生き方だった。超寂しい人生ですよ。ミリエル司教と出会えて良かった。本当に良かった。

彼の一言で俺は戻った、鞭の下、拷問の上に
(だが)彼は代わりに自由をくれた
恥ずかしさが俺を内側からナイフのように刺してくるようだ
彼は俺に、俺にも魂があると言った、
どうやって彼は知った?
俺の人生を動かすこの精神は何だ?
そこには別の行く道があるのか?

ミリエル司教様ーーー!!! 泣いてしまうわ。ヴァルジャンも分からない、分からないけれども、変わらねばならぬと言われている。なんかもうこのヴァルジャンの心情やいかに!! まじで泣くもん。まだプロローグなのに。

俺は辿り着いている(途中)、だが堕ちる
そして夜が近づいている、虚しさを見つめるごとに、俺の罪の渦に向かって
今俺はこの世界から脱出しよう、このジャン・ヴァルジャンの世界から
ジャン・ヴァルジャンはもはや何者でもない、別の物語が始まるのだ!

掴もうとしても届かない、どんどん闇が迫ってくる、っていう心情の中、ヴァルジャンは決意します、生まれ変わると。罪人ジャン・ヴァルジャンはもういなくなる、新しい人生をはじめよう、と。そして、黄色い身分証(仮出獄中の罪人のパスポートは黄色でした)を取り出し、ビリビリに引き裂いて捨てる、プロローグが終わり時は流れるーー。最高にテンションが上がりますね。やっぱり、音に合わせてパスポートを破って空にぶちまけるところは観客のボルテージもMAXですわ。まあ普通にやってることは犯罪でもはや脱獄と変わりなくバレれば今度は終身刑ですけど。でもそれだけの決意をもってミリエル司教との約束を果たそうとするのは素敵ですね。

そんなわけで拙い日本語対訳と共にお送りいたしました。次回、時は流れ8年後の1823年。場所はモントルイユ=シュル=メールに移ります。

それでは、良い夢を。

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