見出し画像

‥こんな話を聞いたよ。③

前回少し触れた「診療情報管理室」で怪異を体験したもう一人のスタッフについて話そうと思う。

前置きとして。私が勤務していた病院。本館は地上5階+地下1階で、「管理室」は5階にある。このフロアすべてが診療情報管理室になっている。

この管理室内に、会議室・資料閲覧室・放射線画像診断部(レントゲン写真などを見て病気や骨折を診断する専門医グループ)の作業室が併設されている。

話しを戻そう。医療事務の業界は、圧倒的に女性スタッフが多い。私のいた病院も9割は女性。男性スタッフは1割いるか、いないか。まるで三毛猫の雄のように少ない、というのは言い過ぎか

そんな中、異業種から転職してきた男性スタッフがいた。名前を長谷川マキトという。元倉庫会社勤務。

マキトは背が184センチもあり、高校時代はサッカー部に所属。今でも社会人フットサルチームに入って、休日はサッカー三昧である。

ただし見た目は元ヤンで強面‥ちょっと女性が近寄り難い風貌だった。

最初に仲良くなったのは、新人教育係の私でマキトは話してみれば、気さくな良い奴だった。

例によって、業務内容と早番・遅番を教えて、独り立ちさせて何回目かの遅番の時だった。

マキトは飲み込みが良いので仕事はすぐ覚えた。
私も安心して遅番を任せて退勤したのだが、その夜マキトから電話がかかってきた。

熊田さん!ちょっと聞いてくださいよ!引っ張られた!引っ張られて身体浮いたんスよ!興奮気味のマキト。私も何を言われているかさっぱりわからない。

マキト、ちょっと落ち着いて。何言ってるか分かんないよ。遅番どうしたの?まずは落ち着かせる。
遅番は‥ちゃんと済ませました。照明も落として、各部屋のチェックも済ませました。ちゃんと管理室の施錠もしてきました。でもっ!なんか!オレ‥出会ったみたいなんスよ!

どうにも落ち着かない。マキト、今何処?えっと、病院スタッフ用の駐車場っす!

わかった。とりあえず病院近くのファミレスで会おう。会って話し聞くから‥といって私もファミレスへ行く準備をする。

やれやれまた職場近くまで行く羽目になるとは‥もしかして、ミハルちゃんと同じ小太りの黒スーツ男でも見たのかな?なんて思いながらファミレスまで車を走らせる。

指定したファミレスに行くと、神妙な面持ちのマキトがいた。ずっとキョロキョロしてる。私を見つけると、熊田さ〜ん!聞いて下さいよ〜!と話し始めそうだったので、コーヒーでも飲みながら話し聞くから、とマキトを促しファミレスの中に。

コーヒーを飲みながら、話しを聞いた。どうやら黒スーツの男を見たわけではないらしい。

以下、マキトの話し。

オレ、遅番を順調にこなしてたんスよ。片付けもすぐ済んだし、システム再起動も問題なかった。もちろん救急外来にも連絡しました。

一通り遅番済んだんで、各部屋の照明を消しながら管理室の出入り口まで行こうとしたんスよ。

で、放射線画像診断部の作業室あるじゃないスか。あの部屋って人体標本ありますよね?室長も言ってた、本物の骸骨。十代のアジア人の男子っていうヤツ。

オレ、気味悪いなぁ‥なんて思いながら骸骨横目で見ながら作業室の照明消していったんスよ。
で、照明落とした瞬間、ワイシャツの袖、引っ張る感覚かあるんスよ。はじめ、なんかに引っ掛けた?って思ったけど、そんな狭い所を通ったわけじゃない。

気のせいだろって思って、作業室のドアまで近づいたら、今度は本当に袖を引っ張られた!
うわっ!何だこれ!思わず骸骨のほう見ちゃいました。真っ暗だから見えるわけないんスけどね。

慌てて作業室から出ようとしたら、今度は襟首掴まれて、おれ、背が184あるじゃないスか!その身体が浮いたんスよ!情け無いけど、うぉー!って叫びました。そこからは猛ダッシュっすよ!

そんなこんなで自分の荷物まとめて、管理室に施錠して出てきたんス。で、スタッフ用の駐車場から熊田さんに電話したってわけっス。

‥あ〜マキトごめん。その部屋、照明落とさなくていいよっていうの忘れてた!私も遅番を先輩から教わった時、放射線画像診断部の作業室は消灯しないでって言われてたんだ。

てっきり画像診断部の先生が24時間出入りする部屋だから消さなくていいのかって思ってたけど
そうじゃなかった‥みたいだね。

あ〜ひでぇ熊田さん!何で教えてくれなかったんスか!マキトはちょっと睨んでくる。

ごめん!今日のコーヒー奢るからさ。許して?あ、それと他のスタッフには言わないでね。
怖がらせるといけないから。お願いね!と私。

それで‥マキト、部署異動したい?って聞いてみた。

いや、しないっスよ。ようは作業室の照明消さなけれりゃ何も起きないんスよね?なら続けます。
お化けが怖いなんて言ってたら、病院で働けないっスよ!

根性あるな‥。今もマキトは管理室勤務。最近役職も付いたそうだ。
マキトの別の怖い話も聞いたけど、またの機会に。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?