見出し画像

帽子







公園に忘れられた帽子がある。
それは野球帽だった。

公園はもう日が沈む。黒字にオレンジでロゴが入ったその帽子は、夕闇に紛れてしまう。

遂に日が沈んだ。壊れた電灯しかない公園は、近くの家の灯りだけが届く。時折公園の前を通る車のライトが強く、鋭く公園の中を照らし出す。それでも、誰も帽子には気付かない。


忘れられた帽子は、闇に紛れて誰にも見つからない。
帽子は誰の頭の上にも乗らない。
帽子は、今はどこにも居ない。
帽子は今は、帽子ではない。


孤独とは、自分と言う存在の枷からの解放。
帽子でもない、誰にも見えない帽子は今なら何にでもなる事が出来る。この世に存在していない間は、この世に存在しない存在にだってなれる。


だと言うのに。
親と共に懐中電灯を持った子供の声と足音が近づいて来る。

なにものでもなかったソレは、帽子に戻らなくてはならない。


どうかまた、忘れてくれますように。













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?