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数字が紡ぐ61枚の世界(デッキ構築の確率論)

※本記事は有料記事ですが、最後まで読むことができます。課金領域には、この記事内の数字を計算するために使用した関数入エクセルのDL用URLのみが置いてあります。

■はじめに

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 先日、一時期ルームシェアをしていた八十岡とTwitterでこんな話をしていました。たったこれだけの会話でバントランプの強さと本質的問題点に気付いた八十岡。おそらく、八十岡の作るバントランプは最強のバントランプになると思うので、近くどこかで彼が作る解答が見てみたいですね。

 一方、デッキを作ってちょっと良い記事を書くくらいしか能のないアホが作ったバントランプがこちら。

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 アホでも勝てるぞの言葉どおり、先日のはまチャレでこのデッキで2位に入賞しました。2位。そうです2位です。決勝で負けた結果の2位です。勝ちに理由がないことはあれども、負けには必ず理由がある。アホがどうやって負けたかというと、3枚しか入っていないニッサを試合の緊張の中で4枚入ってると勘違いし、4枚目のニッサを引けば勝てると勝利の焦るあまりにライブラリーを掘って、ライブラリーアウトで負けています。救えないですね。結局どんなに良いデッキを作っても、プレイ技術と、ミスをしない精神力を伴わなければ勝てないという当然の話です。

 それは棚にあげておくとして、このデッキリスト自体は非常に気に入っています。しかし、もしもこれを目コピーでインポートしようとした人は、このデッキが61枚であることに驚くでしょう。何故61枚なのか。あと1枚が何故抜けなかったのか。そこには、明確な理由がありました。

 今回はこのデッキの解説ではなく、マジック・ザ・ギャザリングというゲームにおける「デッキ構築で考えるべき数字」というちょっと変わった内容を書いてみようと思います。


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 当然のものとしてご存知かと思いますが、MTGにおいて基本地形以外のカードは4枚までしか投入できません。これは黎明期にこのルールがなかった頃、「チャネル」と「ファイヤーボール」と「ブラックロータス」だけのデッキが最強だったためであるとか聞いたことがありますが、カードゲームとしての前提を考えるに当然のルールでしょう。

 60枚のデッキに4枚投入されたカードは、事実上最高の確率で引くことができます。といっても、それが初手に来て1ターン目にキャストできる確率は39.9%でしかありません。バントランプが赤単のような高速デッキを相手にする時、1ターン目に樹上の草原獣を出せるか出せないかは大きな分水嶺となりますが、4枚投入してもその確率はここまでしか上がらないという事実は抑える必要があります。

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 私は概ねですが、それで無理ならしょうがないよ、のラインは87%であると考えています。60枚のデッキに4枚投入されたカードを1枚引く可能性が87%を超えるためには、24枚のカードを引かなければなりません。ドローを入れないとした時、それは18ターン目です。結構な枚数です。4枚入ってるのに引かない!ということは、わりと当たり前に起きてしまうのです。

 一方、樹上の草原獣というのは厄介なカードでして、2枚引くと2枚目は基本的に腐ります。特にコントロールに重ね引いた時のやっちまった感は大きく、できればコントロール相手ではライブラリーで眠っていて欲しいという思いが強くなるでしょう。しかし、4枚投入されているカードは、最大で4枚引いてしまう可能性があります。当然ですね。では、こちらの確率を考えてみましょう。しょうがないよのラインが87%であるなら、やっちまったのラインは13%であると言えます。4枚投入された草原獣を、2枚引いてしまう可能性がやっちまったラインになるのは、なんと11枚の時点で越えてしまうのです。

 コントロールは常として、同じカードを何枚も引いてしまうと苦境に立たされることが多いといえるでしょう。古典的な話でいえば神の怒り、現代っ子に言うなら空の粉砕がまさにそれです。高速ビートダウンを相手に空の粉砕を4ターン目までに1枚引くかどうかは勝敗を分けますが、それが6~7ターン目の時点で2枚3枚と重ね引いてしまうことも勝敗を分けてしまいます。コントロールで4枚投入してもいいカードは、いつ何枚引いても強いような、ウーロやテフェリーだけであるべきなのです。

 これがビートダウンであれば複数枚引いてしまうことで困るカードはあまり採用されません。そもそも、複数枚引いて困るカードとはだいたいが「受け」のカードであり、「攻め」のカードは(それが場持ちしやすいレジェンドでもない限り)何枚引いても困らないのです。

ここから、MTGのデッキ構築における「4」という数字をまとめましょう。

・4枚入れたところで、必ず引けると考えてはいけない。
・4枚入れると、2枚引いてしまうことを考えないといけない。
・それでも4枚とは、投入できる最大値であり、もっとも安定した確率である。


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 3枚は限りなく4枚に近いものの、重ね引く可能性が4枚の時よりも減少します。例えば樹上の草原獣であれば、4枚のときは11枚の時点で13%のやっちまったラインを越えますが、3枚にするとこれは15枚になります。MTGにおける1ターンは重いですね。5ターン目までにやっちまった確率が無視できない4枚と、9ターン目まではやっちまった確率を(ある程度)無視していい3枚の差は大きいと言えるでしょう。

 一方、3枚の樹上の草原獣を1ターン目に引く可能性は、4枚の39.9%に対して、31.5%にまでしか減少しません。元々低い数字は、それが多少低くなってもそこまで大きな関係がないように見えてしまいます。どうせ信用できない数値は、どうせ信用できないのです。これが確率のトリックです。

 実は確率にはラインがあるのです。それが0と1の壁と、99と100の壁、そして87の壁です。0と1の壁は「無理と可能性がある」の無限大の壁であり、99と100の壁もまた「絶対ともしかしたら」の無限大の壁です。87の壁は、上では私が好きだからと言いましたが、一応統計学的には理由付けがされています。しかし、MTGにおいて統計はほぼ無意味なので、これは特に意味を持ちません。もしもあなたが90%でないと納得できないと思うなら90%にすればいいでしょうし、80%でもいいと思えば80%にすれば良いでしょう。そして、そのラインを越えているか越えていないかのみが判断における重要なポイントであり、それ以外は誤差と言い切ってしまっても良いのです。そしてそれは、そのラインから外れれば外れるほどその差の持つ体感的な意味は小さくなります。

 ターンや枚数で考えるか、確率で考えるか。そのどちらにフォーカスを当てるかを考えることで、デッキ構築における枚数の概念上の問題は明確に変わってきます。「3」という数字をまとめましょう。

・3枚は、元々信用できる確率ではないという点で、4枚投入と1枚引く可能性は大差ない。
・3枚は、4枚に比べて重ね引くリスクが大きく減っているように感じる。
・しかし、数値が変動していることは事実であり、少なくとも3枚のカードは、4枚のカードより引く可能性が下がっている。


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 2枚は4枚より大きく意味が変わってきます。それは、引くまでに大量の山札を掘らないといけないという点です。4枚のカードは、24枚引けば1枚以上引く可能性が今回記事で定義されている安定域である87%に到達しました。しかし、2枚のカードでこの安定域に達するのは、39枚を引く必要が発生します。その差15枚。大きな差です。これが、ゲーム後半に引きたいカードは2枚でいい、という当たり前の概念の裏付けです。

 一方、2枚のカードを1ターン目に引く可能性は22.1%です。39.9%からだいぶ減ってしまいましたが、それでもどうせ引かない、引いたらラッキー/アンラッキーの域であり、かつ、13%という「やっちまった」ラインには入っていません。

 それでいて、2枚引く可能性は大きく減ります。2枚引いてしまうのがやっちまったの13%に入るためには、22枚ものカードを引く必要があります。4枚での11枚、3枚での15枚に比べて、7枚も増えました。これが、過去のバントランプや死者の原野デッキにおいて、樹上の草原獣の採用枚数が2枚であることが多かった理由であると言えるでしょう。

 また、2という数には1という数にない大きなポイントがあります。それは、2枚目を引くことができるかできないかです。引く確率で言えば2と1はそこまで大きな差がありませんが、2枚目を引ける可能性という意味で、そこには0と1の無限の差があります。バントランプにおける精霊龍ウギンは、1枚引けばほとんどの場合において十分ですが、出した上で除去されてなおゲームが続くマッチアップもあり、その時に2枚目が出せるかどうかは大きな差があります。

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 ところで、散々樹上の草原獣の話をしていますが、私は最新スタンダードのバントランプにおいて、このカードは入らないと考えています。それは、他のカードのカードパワーの高さ故です。マナを強引に1ターン伸ばすよりも、ジョルレイルで序盤を支える方が強いと思うのです。そして、そのジョルレイルもまた複数枚引きたくない要素が強く、かつ、2ターン目に出したいカード。としたときに、最初に公開した私のデッキに、ジョルレイルが2枚採用されていた理由に頷くことができると思います。一方、ウギンが2枚である理由も、上で語りましたね。ジョルレイルとウギンは同じ2枚投入ですが、その「2」という数の理由にはまるで別の意味が込められていたのです。

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 少し脱線しましたが、改めて「2」という数をまとめましょう。

・2枚は、元々信用できる確率ではないという点で、3・4枚投入と1枚引く可能性は大差ない。
・2枚は、3・4枚に比べて重ね引くリスクが極めて大きく減っている。
・2枚は、1枚とは違い、2枚目を引くことができる。
・しかし、数値が変動していることは事実であり、少なくとも2枚のカードは、3・4枚のカードより引く可能性が下がっており、1枚のカードより引く可能性が高いことは事実である。


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 1枚のカードが初手に来る可能性は11.7%です。ここで13%のラインを切りました。来てしまうのはやっちまったパターンです。1ターン目に出したい樹上の草原獣は、いくら2枚引きたくないとはいえ、1枚だけ投入するのはあまりに「ブレ」を求めた形であると言えます。

 一方、1枚のカードを信じられる確率で引くために必要なドロー枚数は53枚。もはや、現実的に掘れる枚数ではありません。つまり、1枚のカードはもはや期待するものではなく、「中盤以降で引いたらラッキー」のカードです。

 そして、1枚のカードは2枚引く可能性が0です。再利用手段がない限り、1枚しか引けず、1度しか使えません。

 ここでのポイントは「中盤以降で引いたらラッキー」で「絶対に2枚引くことがない」です。バントランプというデッキにおいて、これに該当するのが悪斬の天使です。

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 悪斬の天使は、除去されなければビートダウン相手のゲームを1枚で決めるカードです。勝ったな、風呂入ってくるか、という状況から、ぽんと出てきた悪斬の天使によってライフ1からまくられたビートダウン使いは数知れません。しかし、運良く除去し勝利した者も多く、その時に2枚目の悪斬の天使を抱えながら死んだコントロールプレイヤーも多いでしょう。また、コントロールには鼻歌まじりで除去られてしまい、仮に生き残ったとしてもコントロールにとってライフは飾りです。2枚引いても無意味でしょう。すなわち、悪斬の天使とは、活躍するしないのブレの大きなお祈りカードなのです。こういうカードこそ、1枚投入が正当化されます。

 一方、MTGはPTの決勝など以外では、相手のデッキリストを伺い知ることができません。ここで古くから一部の玄人が仕込んでいた、1枚の魔力の乱れを思い出します。

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 魔力の乱れは、ケアするべきカードです。入っているとわかっていれば、フルタップでビッグアクションをするべきではありません。1~2ターン待つ。それだけでこのカードは腐るのです。ですが、もしもその魔力の乱れが1枚しか入っていないとしたら? 序盤に「うっかり」引いて「うっかり」刺さった魔力の乱れは、もう存在しないに関わらず、その後対戦相手の動きを1ターン遅らせる『存在しないサリア』になります。このように、存在しているだけで怯えなければならないカードを1枚入れることは、見た目以上の意味があるのです。上のバントランプに1枚だけ採用されているサメ台風はまさにそれです。

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 では「1」についてまとめましょう。

・1枚は、初手に来るのはもはや事故である。
・1枚は、中盤以降に運がよいと引くカードである。
・1枚は、絶対に2枚引くことができない。
・1枚は、対戦相手に存在しない2枚目を怯えさせる。


■0.9

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 言うまでもなく、「アン」の世界においても、カードを小数点の枚数で投入することはできません。しかし実は、事実上カードの投入枚数を小数点にすることはできるのです。それは、デッキの総枚数を60枚以上にすることです。

 MTGのデッキでは、時として「引いてしまっては困る」カードがあります。変身デッキにおけるエムラクールであり、古典的なシルバーバレット戦略における色対策カードです。前者のようなライブラリーにあることで成立するコンボの場合、そもそもコンボカードを引く可能性を高めたいため、デッキ枚数を60枚より増やすことは賢いとは言えません。しかし後者はどうでしょうか?専用カード1枚+複数種類複数枚のサーチカードという構図を見た時、デッキ枚数を増やすことは正当化されます。

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 そもそも、コントロールで4枚投入していいカードはごくわずかです。バントランプにおいて、誰もが絶対に4枚投入するべきカードは「成長のらせん」「テフェリー」「ウーロ」の3種類しかありません。(諸説あります。ニッサを含む場合もあるでしょう)

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 ここで思い出すのがヨーリオンです。バントヨーリオンは前環境の1つの覇者でした。しかし、ほとんどの場合においてバントのヨーリオンは、8枚目の手札としてのおまけで出る5/4/5飛行であり、ルーカヨーリオンや、黒白ヨーリオンのような必須カードではありませんでした。そんなヨーリオンを使うため、多くのプレイヤーはデッキを80枚にしました。バントは80枚にしても問題ないデッキであったことも大きく、これによって1枚投入、都合0.9枚投入のカードを増やし、「ラッキー」を狙って誘発させることもできました。しかし、そもそもヨーリオン自体の恩恵の薄いバントランプは、80枚という枠にすらとらわれる必要がないのです。70枚でもいいし、100枚でもいい。そのために解決すべき問題は土地バランスを自分で計算することだけです。


■5以上
 同種のカードが2個あったらデッキを作れ。よく聞いた話です。4枚投入のカードであっても確実に引くことはできないものの、8枚投入のカードは13枚のドローで引き入れることができます。現実的な数値です。

 また、現代スタンダードにおいて、2ターン目の行動は極めて重要であると言えます。2ターン目をパスしたデッキは概ね勝てません。と、考えた時に、2マナ以下のカードを13枚入れれば、2ターン目にパスしないで済むということを覚えておくべきです。

 速いデッキを相手にした時、初手に2マナのカードか、テフェリーのない手札はマリガンを検討します。その点で私のバントランプは、成長のらせん、ジョルレイル、ウーズ、テフェリーで合計12枚採用されています。これにより、安定したキープが可能になっているのです。


■24
 私の記事を読んでくれている時点で、以前私が晴れる屋にマナベースの記事を寄稿したことを知っている方がほとんどでしょう。24。勘のいい人はピンときますが、それはMTGAのAIがとりあえず60枚のデッキの突っ込んでくる土地枚数であり、古来より理想的な土地枚数と考えられるものです。

 バントランプにおいて、土地を何枚入れるかは難しい問題です。最速でのニッサ、ウギンを目指す手前、多くの土地が必要なことは言うまでもありませんが、逆に、土地を増やしすぎれば土地しか引かずに死ぬことが増えるのもまた言うまでもありません。しかし、現代MTGにおいては、フラットした土地の受け皿が多く用意されている(ハイドロイドやヴァンドレス城など)一方、土地が3~4枚で止まった場合は即死します。その点で、バントランプは多くの土地を入れるべきであり、その枚数は27~29で常に議論されています。

 しかし、この選択肢は、27・28・29の3つではありません。小数点の数値があるのです。そう、これが私のデッキが61枚である理由です。私のデッキの土地枚数は28枚ではなく、27.9枚なのです。もしもどうしてもあなたが60枚のデッキでないと蕁麻疹が出るなら、土地を1枚削って27枚にすればいいでしょう。しかし、土地を27.9枚にしたことによりドローなしで先手4ターン目に土地が4枚並んでいる可能性は、77.4%になりました。27枚だと、この確率は75.5%に下がるのです。これにより、2ターン目に成長のらせんを打てる可能性は、44.5%から、43.9%に下がっています。無論、何か土地以外のカードを1枚抜いて土地を28枚にすることもできますが、ここまでの理論を前提に、メインデッキに抜けるカードは1枚もありません。それこそが、私がこのデッキを61枚でFIXした理由です。61枚には合理性があるのです。


■終わりに
 ヨーリオンは、教えてくれました。もはや60枚でデッキを組むべきという固定概念はデッキビルダーにとっての「枷」でしかなかったと。しかしそれでも、まだ人は60枚か80枚に囚われています。61枚でもいいのです。今あらためて、61枚以上のデッキを作るべき時が来ています。特に、コントロールをにぎるあなたは。

 以上で本記事を終えますが、以下の課金領域に、今回この記事を作るのにあたって作成した計算関数が入力されているエクセルが置いてあります。これを使えば、あなたは安心して、61枚以上の世界に飛び込むことができるでしょう。61枚以上のデッキにした時、1~4枚のカードの確率はどう変化するのか。それを己で計算し導きたい人は購入をお願いします。

 では、読了ありがとうございました!

■追記

ちょっとだけ補填でもう1本記事書きました。こちら!


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