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千手観音

新しく移ったフロアに、シーツ交換などで体をゴロゴロされた直後(ここ重要)、こちらからお願いする前に「たん取るよー」って言って痰の吸引してくれる看護師さんがいる。

これは、対位ドレナージの効果についてよく理解されている証拠で、自分にとっては非常にヒジョーにありがたいことなのです。

体位ドレナージとは、体を横向き場合によってはうつ伏せにさせることによって、肺の奥のほうに溜まってしまった痰を気管のほうに流し込み、そいつを吸引する吸引法のこと。普段吸引カテーテルでは届かない場所に溜まった痰を吸引することで、肺水腫や無気肺などの肺疾患を予防すると共に、肺機能の維持に繋がるとてもありがたい吸引法なのです。

急性期病棟を担当する看護師さん達は、体位ドレナージについてよく知っています(多分)。何故なら、日々のルーチンワークに体位ドレナージの実施が組み込まれているから。
聴診器を胸に当てるだけで、「お、いたいた♪今日は右向きになろっか♪」とか、うつ伏せにさせられたおれがコホンと一つむせただけで、「来た来た♪」とか言って嬉々として吸引を始めたりとか、まるで魔法使い。
しかも看護師2,3年目の若手が普通にやってのける。まるでウィッチ。

しかし療養病棟となるとこううまくはいかない。圧倒的に人的リソースが違うからだ。患者2,3人に対して1人の看護師を割り当てられる急性期病棟に対して、療養病棟は患者10数人に対して1人の看護師しか割り当てることが出来ない(法律で決まっている)。当然患者1人に対してかけられる時間は限られ、体位ドレナージを毎日やっている暇などないのだ。

こういった環境の違いから、日々の看護に必要となる看護知識にも当然差が生まれるため、体位ドレナージについて知っている療養の看護師さんは結構少ない(おれ調べ)。
ゴロゴロイベントの後に吸引をお願いするためにナースコール。看護師さんが来てくれるんだけど、(早く吸引してくれないとせっかく気管に流れてきた痰が肺にもどっちゃうよー)というおれの心の叫びをよそに、何故か同部屋の他の患者さんの処置をしてからおれの吸引にやってくる。まるで理解していない…(安西先生風)
下手するとおれの吸引のことを忘れてそのまま出ていっちゃう看護師さんもいれば、「1回吸引したら2時間は吸引しませんっ!」とかいうトンデモ理論を発する看護師さんもいる(ごく一部ですよ、ごく一部)。

というわけで、体位ドレナージについて知っているであろうこの看護師さん、当然というか他の仕事もテキパキとこなしスキがない。
おまけにこの間のブルーインパルス飛行時になんとかしておれのベッドの角度を変えて直接見えないかどうか試行錯誤してくれて、難しいとなるとすぐに動画撮影に走っていって動画を見せてくれたのもこの看護師さん。

周りからは「千手観音」と呼ばれている。言い得て妙、ぴったりのあだ名である。

え?医師でも看護師でもないのに体位ドレナージについて詳しすぎるだろって?自分に施される処置について調べることなんて当然だるぉぉぉ?


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