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立ち呑み小説「妻がヌードになる」

今週妻がヌードになる。

そのことだけがくらくらと頭をめぐる。トマ酎をちびちびやりながら、まだ1杯目だというのに酔いが回るのか思考が回るのかくらくらして仕方ない。首の付け根もどんよりと痛い。

いつもの立ち飲みの、いつものカウンター。メニューが書いてあるホワイトボードの、女店員が書いた丸文字を何度も繰り返すように読んでいるが、ちっとも頭に入ってこない。酔っているせいか二重に見える。

山口の隣には、ぱっと見きれいな中年女がいて、時折ガハハと大きな声で笑っていた。女の隣で日に焼けた中年男が「おれの愛撫は2時間掛ける」とガハハ女をしつこく口説いていた。「おれの2106番目にならないか」

今週妻がヌードになる。そのことを山口が知ったのは、一昨日のことで、立ち飲みから自宅に戻り、台所のテーブルに並べてある晩ご飯がわりの、レトルトカレーと皿に盛ってある五穀米を電子レンジで温めようとした時に、携帯にメール着信の知らせがあったからだ。

メールを送ってきたのは、コンビニのバイトに出ている大学生の娘で、「パパ知ってるの? ママ、ヌードになるって」と書いてあった。いきなりヌードになると言われても、正直よくわからなかったが、いまの妻ならそういうこともあるだろうと思った。

山口の妻は娘が高校生の時に、娘が読むような雑誌で読者モデルとして母娘で写真を掲載された。それが評判となって娘が大学生になる頃には、中年女性が読むような雑誌の読者モデルとなって家を空けるようになった。美魔女とか言うらしい。世は熟女ブームだという。

ヌードになると知って山口が頭に浮かべたのは、寂れた温泉で撮影された五月みどりや由美かおるのヌード写真で、妻のヌードはもうかれこれ18年近く見ていないので、20代だった妻の熟女としてのヌード姿ははっきりと想像できなかった。

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