ショートショート【うなぎと亀】
昔々、ある田舎の小さな川に、鰻と亀という二人の友達が住んでいました。
鰻は海に行って産卵し、川に戻ってくるという特殊な生き方をしていたため、亀よりも多くの経験を持っていました。
一方、友達の亀は長寿であったため、とても多くの知識を持っていました。
そんなある日、鰻は亀に向かってこう言いました。
「なぁ、亀さん。長い間降っていた雨も上がったし、運動がてら、ここはひとつ丘の上まで競争でもしませんか?」
その話を聞いた亀はとても乗り気でこう答えました。
「長寿のわしに向かって勝負とは、よほどワシをバカにしておるようだな。いいじゃろう、その話、乗ろう。」
すると二人はすぐに、丘まで登る勝負をすることになりました。そのルールは、川を上って丘の上の旗に到達することでした。
鰻は速さと巧みな水中移動の技術を持っていましたが、亀は知識を駆使して川の流れや岩場の特性を利用することに長けていました。
そして鰻と亀はスタート地点に立ち、準備を整えました。
スタートの合図が鳴ると、鰻は瞬時に水中を泳ぎ、川を上っていきました。
その姿は川を上ることなど日常だといわんばかり。
しかし亀は焦ることなく、巧みな戦略を練りながらゆっくりと川を進んでいきました。
岩や流木を利用し、川の流れを読み取りながら進む亀の表情は落ち着いたものでした。
鰻は川を上り続け、そして早々と丘の中ほどまで来ると、後ろを振り返りましたが、亀の姿はどこにも見えません。
鰻はすっかり安心して、一休みすることにしました。
そのころ亀はというと、下流からゆっくりと丘に向かっている最中でした。
亀はたくさんのことを知っていたため、様々なパターンをシミュレーションしながら、歩いていきます。
すると、空からぽつぽつと雨が降ってきました。
一休みしていた鰻はその雨に気が付くと、目を覚まし、さらに急いで丘の上を目指します。そして旗が見えると、一気にその旗の側に体を寄せました。
そして再び振り返ると、やはり亀の姿はありませんでした。
「亀さん、やっぱり遅いなぁ。何してるんだろう」
その頃、天候が変わって川が増水しており、亀は想定以上に丘にのぼることに苦戦していました。
そして雨脚がさらに強まると、下流にいたため、亀は激しい水の流れに流されて、元の位置まで戻されてしまいました。
鰻は丘の上からその光景を見ると、こうつぶやきました。
「想定できないことは想定できないからこそ、早くやることが大切なのに」
鰻はそう言うと、再びスタートの位置まで戻り、水に流されている亀を助けました。
しかし亀はその鰻の余裕に苛立ちを覚え、喧嘩を仕掛けてきたそうです。
そして時は流れ続け、鰻は速さを極め、竜にまで成長しました。
しかし亀はいまだ過去のことを怒っており、玄武になっても、ずっと喧嘩をしているとかしていないとか。
・・・なんでやねん、なんでやん。
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