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qPCRの基礎の基礎の話(プラスミドゲート事件に関連して #5)

Twitterとnoteで、東大の新田剛先生が、おかしなことを言っている研究者(特にある程度の知識と肩書きがある研究者)と闘ってくださっていることを、とても頼もしく思って見ていました。以下のツイートで、ようやく一区切りがついたように思います。お疲れ様でした。

おかしなことを言っていても、その肩書きで信用を得ていた研究者たちの『正体』が徐々に暴かれていくというのは、私がnoteを始めた頃は考えられなかったことです。

mRNAワクチンへのDNA混入問題について、現在も様々な検証が進められていますが、今のところ、「mRNAワクチンに含まれるDNA量は、mRNAワクチン接種を直ちに中止させる程の強力な根拠にはならなかった」ということになるかと思います。

this is probably not a problem, but it is surprising and therefore causing concern.
訳)これはおそらく問題ではないが、驚くべきことであり、それだけに懸念されることです。

規制値10ngを1/1000でクリア

そう言えば、プラスミドゲート事件についての記事の続きを書くのを忘れていましたので、ここに書きたかったことを簡単に書いておきます。

今回のDNA混入問題(騒動)は、mRNAワクチン製造過程においてDNAを分解する際に、普通のDNase Iではなく、例えば、Invitrogen社の『TURBO DNase』などの強力な改変型DNaseを使えば、簡単に解決する問題だったと思っています。

DNase Iは、RT-PCRの前にRNAサンプルからDNA混入を除去するために一般的に使用されます。従来のDNase IはDNAに対する親和性が弱く、低濃度のDNAを非常に非効率的に切断します

https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/jp/ja/AM2238

TURBO™ DNaseは、野生型DNase IのDNA結合ポケットにアミノ酸の変化をもたらすタンパク質工学アプローチを用いて開発されました。これらの変化により、DNAに対するタンパク質の親和性が著しく強化されます

https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/jp/ja/AM2238

これは以前、天然痘ワクチンについての記事にも書いた文章ですが、より良いものが既にあるにも関わらず、それを使わないのは『怠慢』であって、私はそういうのは許せないと思っています。登録商標の付いた『TURBO™ DNase』を、ファイザーやモデルナなどの他の企業が使うことに問題がある、あるいは普通のDNase Iを使うよりもワクチンの単価が上がってしまうから使えなかったのかもしれません。しかしながら、全世界が一丸となって対処すべき未曽有の事態でそんなことを言っている場合ではないでしょう
mRNAワクチン(mRNA製剤)を製造する企業には、ぜひ『TURBO™ DNase』などの強力な改変型DNaseの使用を検討していただきたいと思います。mRNA製剤の開発は今後も発展していく分野であり、そういう提案をすることで、DNA混入に対する不安を払拭していく方が現実的だと思います。

話を戻します。
現状、『普通のDNase I』を使っていたとしても、mRNAワクチンに含まれるDNA量は、mRNAワクチン接種を直ちに中止させる程の量ではなかったことが明らかになりつつありますが、それでも、「いや、その測定結果はおかしい!もっと多くのDNAが含まれているはずだ!」と、実際にDNA量を測定した新田先生を攻撃(口撃)する人たちがいます。

mRNAワクチンに、どのくらいDNAが混入しているかを知るためには、『qPCR(quantitative PCR, 定量PCR)』という手法が用いられます。以前にも、qPCRについての記事を書きましたが、かなり長い記事でしたので、今回、必要な部分だけピックアップして紹介します。

今更、以下のグラフの意味を説明するまでもないかもしれませんが、qPCRでは、『TaqManプローブ』や『SYBR Green』といった試薬を用いることで、PCRが進むと、蛍光シグナルによってDNAの増幅をリアルタイムに検出できます。このことから『リアルタイムPCR』とも呼ばれますが、これは一般に『qPCR』とは同義とされています。

DNAの増幅を蛍光シグナルによって検出できる画期的なシステムですが、PCRに必要なDNAポリメラーゼの疲弊、プライマーなどの枯渇などにより、ある一定のところでそれ以上蛍光シグナルの数値(蛍光強度)が上がらなくなってしまいます。
これが『プラトー』と呼ばれる状態であることは、この記事に興味を持つ方であれば、ご存知の方も多いでしょう。

(画像:https://lifescience-study.com/3-quantitative-pcr-by-real-time-pcr/)

今回、qPCRの反応液中の状態を分かりやすくするために、グラフにイラストを加えてみました。

このS字状の曲線(『シグモイド曲線』)の初期、『指数関数的増幅期』では、反応液中にPCRに必要な全ての要素が多く存在し、DNAポリメラーゼが高い活性を保っています
しかしながら、曲線の中心を過ぎた頃から、反応液中の状態は悪くなる一方で、プラトーに達する頃には完全にダメになってしまっています

完全にダメになった状態…。

今回、覚えて欲しいキーワードは、『指数関数的増幅期』です。
qPCRでは、反応液中の状態の良い指数関数的増幅期から、PCR装置のソフトウェアが(ほとんどの場合)自動的に『Threshold(しきい値)』を決めます。そして、そのThresholdと増幅曲線の交点のサイクル数を『Ct値』と呼び、このCt値が、目的のサンプル中のDNA量の算出に必要となります。(下のグラフの縦軸は、対数で表示されています。)

しかしながら、現在、Ct値ではなく、プラトー付近の反応液がダメになった状態の数値(サイクル数)を根拠に議論している人たちがいます。

Ct値はThresholdによって大きく変わります。このことから、新田先生の定めた(正確に言えば、新田先生の測定結果からソフトウェアが自動的に定めた)Thresholdが信用できないという前提で、ThresholdとCt値以外の指標(=プラトー付近のサイクル数)を基に、議論が繰り広げられているようです。

同じグラフでも、Thresholdの位置を変えるとCt値も変わる。

全く意味不明な議論です!
qPCRにおいて、反応液が良い状態の指数関数的増幅期でThresholdを設定する意義を理解していないのでしょう。
単に勉強不足なのか、新田先生を貶めるために、デタラメを言っているのかは分かりませんが、ある程度の分子生物学の知識があって、Twitterやnoteなどで情報発信している人であれば、後者に分類されるかもしれません。そのくらい今回の記事の内容は、qPCRの基礎の基礎の話です。

端的に言えば、新田先生が蛍光シグナルの『指数関数的増幅期』から設定されたThresholdで算出されたCt値から、「含まれるDNA量が〇〇コピーだ」と言えば、その通りなのですそれに対して、異論を挟む余地は一切ありません!

しかしながら、その「新田先生が〇〇コピーと言えば〇〇コピー」という事実が気に入らない人もいるでしょう。(苦笑
そう思うのであれば、自分でmRNAワクチンを手に入れて、測定結果のグラフから、自分で適切なThresholdを設定して、そのCt値から、mRNAワクチン含まれているDNAのコピー数を提示すれば良いのです。そこで、ようやく議論のスタートラインに立ったと言えるのではないでしょうか。

以上。

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※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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追記)

反論というよりも、初歩的な指摘をしたいと思います

荒川先生にお尋ねすべきことは何もございません

その通りだと思います。お疲れ様です。

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