将来

 祖母に呼ばれた声でハッとした。もう、四時だという。おもむろに廊下に出て声のする方を見ると目が合った。

手招きに従うままリビングに入れば、席に座るよう、目配せされた。

椅子に向かい合うように腰掛けると沈黙が流れる。この家には自分と祖母以外誰もいない。

「……将来のこと、考えているの?」

まさか、祖母の口から将来について聞かれるとは思っておらず、あんぐりと口を開ける。

進路を早く見つけなければならないことは重々承知だが、現実から目を背けていた。母と時々話しては学費の事などで心を痛めたらしかった。いつもぐうたらとしている自分のことが引っかかったという。

もちろん、考えてはいる。しかし、見通しが立たないと理由をつけて結論を先延ばしにしていることもまた事実だ。
一方的に言われるのを聞きながら、不安と申し訳なさで心がいっぱいになった。目の下がじんと熱くなってきたのを感じ、目をしたたかせる。目の前の祖母も気のせいか目が潤んでいるようだった。喉がきゅっとなり、逃げるようにして部屋に戻る。
 
 果てしなく続く、砂漠にいつ終わるか分からない夜を見ているような心地だ。後ろを振り返れば後悔に苛まれ、足元を見れば絶望する。ただ、進むしかないという不安。それらを前にした時に、挫けそうになった時に助けを求め、歩みを進める。
 

 重い足を動かして部屋に戻った。ベッドに身体を委ね、顔を埋める。何がしたいんだろう、何が好きなんだろう、存在意義とは?誰に必要とされている?どうしてこんなにも胸が苦しいんだろうか。考えるたびに黒雲となって冷たい雨が降り注ぐ。顔を歪ませながら静かな室内に嗚咽が響き渡った。

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