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米国企業と日本企業のインド出願の違いを見る 米国企業はインドを知的資源として使っているといえるか?

特許情報を用いて、「定性的な仮説」をどこまで検証できるかを、試してみた記事です。

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上の図をご覧になってください。インドに出願している日本企業のトップ20位を取り、出願分野を色分けしたものです。下に、インドに出願している米国企業のトップ20位を取り、出願分野を色分けしました。

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漠然と、「米国企業の方がインドの人材を活用しているのではないか?」と思いつきました。色分けは産業分野と対応させました。

これを分析に適した仮説に直します。仮説として、「米国企業はインドをR&Dの拠点とみており、日本企業はインドを市場と考えているのではないか」と整理します。

1.定性的な命題 「米国企業はインドをR&Dの拠点ともみており、日本企業はインドを市場とみているのではないか」

まず、日本企業と米国企業の「インド出願」がどの程度なのかをここ10年単位で見てみます。

Orbitの検索を用いて、ファミリ単位の検索で、2020年12月31日までに公開されている、「日本企業かつインド出願をした」データア4万ファミリあまりと、「米国企業かつインド出願をした」データ9万ファミリあまりを解析モジュールで分析しました。

解析モジュールが、10万ファミリまでしか対応していないため、結果的に優先権主張日で2009年からのファミリについて、データ解析ができました。

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左が日本企業の出願、右が米国企業の出願です。出願傾向にはそれほど大きな差はなさそうです。

ファミリ単位の検索で優先権の主張日を基礎に集計しているため、PCT出願を考慮し、2009年~2017年までを信頼のおける値として傾向を見てみす。

2-1.日本企業の傾向

まず日本企業の出願動向を見てみます。

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自動車関係が多く、続いて製鉄関係が多い。電機もそれなりにあるという分布です。概ね上位出願企業は出願数を維持しているようです。

細かくみると、日産自動車、シャープの2社が顕著に出願を減らしたこと。NTT DOCOMOが2017年に顕著に出願を増加させていることがわかります。ほか、ソニーは出願の方針を途中で変えたことがうかがわれます。

2-2.日本企業は?

では、この分布は「市場」とみているのか。

「鉄鋼」については「市場」とみているとしか考えにくいところがあります。

では、R&Dの拠点」とみているか。

「自動車」「電気」に分類された企業は、コンピューティングなどの「ICT」にかかわるものも出しています。「R&D」の拠点とまでは言えなくとも、潜在的には意識しているといってよさそうです。

結論として、「鉄鋼業界は市場としてみているが、自動車業界の一部と電機業界は将来のR&Dの拠点としてみている可能性はある」といえそうです。

2-1 米国企業の傾向

次に米国を見てみます。

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一目で「黄色」が多く、上の行が「赤」が多いため、傾向が読み取れません。「QUALCOMMが多すぎないか?」と気が付いたので、図表に手直しを入れます。

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大分すっきりしました。当該期間の出願総数は8万ファミリ程度ですが、1割以上をQUALCOMM社だけで占めていますまた、2位のマイクロソフト、3位のGEも、4位の出願数を二倍近く上回っています。

米国企業の出願の方が極端だった、というのがこの時点でわかります。

念のため日本の場合を確認します。極端な分布にはなっていません。

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さて、QUALCOMM社は特許の出願が特殊な会社なので、ひとまず置いておき、残りの部分から、この分布は「市場」とみているのか「人材拠点」とみているかについて検討します。

2-2. 米国企業の検討

さて、「QUALCOMM」はじめ上位企業を除いて技術分野を再掲します。

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「ICT」以外に「製薬」、「医療」、「化学」などが多いことに気が付きます。

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「GOOGLE」「HP」が2015年から出願を増やしています。ハイライトから除外していますが「マイクロソフト」も似た動きを示しています。この三社が「コンピューティング」に注力している点には何かしらの意図があると考えてもよさそうです

コンピューティングについては、技術開発に大規模な製造拠点は必要ない領域の可能性があります。将来のR&Dの拠点としてみているか、インドで何かしらのビジネスを行うことを想定し、出願を増加させている可能性はあります。

一方、「インテル」は本業のコンピューティングではなく、「通信」として出願を試みたものの、断念したようにも見え、もう少し詳細に検討する必要がありそうです。

「アップル」は独特な動きをしています。もともと出願数が多くない会社なので、2015年より後にこれだけ出願をしているということに何か背景があるかもしれません。

ほか、「ダウ」2010年から出願を増加させており、子会社である「ダウ・アグロサイエンス」は2013年ころに出願を活発に行っていますが、分野は化学材料(農業)などです。

「ユニリーバ」はLIPTONのブランドなどを持つ会社ですが、「初めから注力し続けている」のは、化学分野で、調味料や香料などであると予想されます。

総括するとこうなります。

マイクロソフト、グーグル、HPの米国のICT関連企業3社は、将来のR&D拠点とみている可能性はある

しかし、ユニリーバやダウのように消費財ビジネスや農業関連の企業はインドを市場と考えて出願していると思われる

3. 総括

お題と答えをまとめます。

問「米国企業はインドをR&Dの拠点と考えており、日本企業はインドを市場と考えているのではないか」

答「QUALCOMM社の出願が膨大であり、データがゆがんで見えている。その部分を除去して考えると、一般論として日本企業と、米国企業との間に大きな差があるとは言えない。したがって問に対する答えはNOである。

「ただし、個別に企業を検討すると、米国の、マイクロソフト、GOOGLE、HPは2015年以降に出願数を増加させており、将来の&D拠点としてみている可能性がある」

4. 付記

結論として、定量的に見た結果、「全体としての傾向はない」が、「マイクロソフト」、「グーグル」、「アップル」のインド出願は、特殊な意味を持っている可能性がある、という結論が得られました。

今回の分析は、苦労しました。

労力に見合っただけの価値が、読者に伝わればと心より願います。

2021年1月18日

川瀬知的財産情報サービス 川瀬健人



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