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ヒューゴー賞の闇落ち

こちらのニュースを読みました。

SF分野の権威ある「ヒューゴー賞」の審査委員会が中国で問題になりかねない作家を最終選考から除外していたことが判明 Gigazine 24/2/20

SF小説の世界的文学賞「ヒューゴー賞」の選考で「政治的配慮」疑惑 中国関係者が「センシティブな問題を含む作品」の除外を要求か NEWSポストセブン 24/2/27

SF小説の権威ある賞、ヒューゴー賞が中国の言論統制に屈したというニュース。2023年は中国の成都でワールドコン(世界SF大会)が開催され、そこでの同賞の発表でした。そこで中国政府から中国に批判的な要素を含む作品や、批判的な言動をした作家を最終選考から外すように求められ、従ったというリークがあったのです。

やっちまったなあという感想と、仕方ないかなあという感想と、両方あります。

やっちまったの方。中国は人口減のフェーズに入ったとはいえ、巨大市場です。当然そこで商売はしたい。ご機嫌を損ねて出版停止とかになったらたまりません。

こういうことが容易に思いつくので、金の前にくじけたんだろうなという評価が出てもしょうがない。

まあ実際に中国のウイグル人に対する人権問題などは、中国が高度成長にあった時には、欧米でまったく問題になっていませんでした。ちょっと陰ってきたら急に出てきたのです。それまでも海外に逃げ出して、問題を訴えていたウイグルの人はいたのにです。欧米大好き人権問題が金の前にはこの程度の扱いなので、その中に含まれる表現の自由もこの程度の扱いでもしょうがないですよねえ(皮肉)。

それに対して、仕方ないかなあの方。上に書いたしょうがないは皮肉ですけれども、マジで配慮してもしょうがないかなと思うのは、中国の法律の問題です。外国人でも中国の権威を傷つけるような発言や行動を取った場合、しょっぴけるように法改正がされています。まあ別に法律がなくてもしょっぴく国だと思うんですけど。

そういうところで行われた大会で、国に喧嘩を売る場合、命の覚悟までしなければいけない。岸田を「増税メガネ」と煽っても大丈夫な、自由な民主主義国家とは違うのです。まあちょっと中国でSFが盛り上がってて市場が広がりそうなので、ここでSF大会しとくかなというところが間違いだった、ということでしょう。

さてさらに、もう一つ問題があります。後から出たポストセブンの記事の最後のところに、受賞した中国人作家が、国営テレビの番組をモチーフにしたと言っていることが付け加えられています。

2023年の同賞の受賞作の中には中国人作家、海漄氏の『時空の絵師』が入っているが、海氏はこの作品のモチーフになったのは「中国国営中央テレビ局の文化財をテーマにした番組だった」としており、世界的にも権威のあるヒューゴー賞のあり方が問われている。

特にこれに論評がついているわけではないのですが、ここまでの文脈からすると、この作品は中国政府にとって好ましいと思われる作品だったということになります。

ソフトパワーという概念があります。その国の文化やコンテンツなどを広めていくと、好感を持ってくれる相手国の人が増えて、政策上有利になるという考え方です。

日本のソフトパワーはかなりのものです。特に漫画やアニメががんばっています。国策のクールジャパンの方はいまいち評価が低いですけれども。

ここにしっかり国家予算を突っ込んでいるのが、 お隣の韓国。日本の文化予算とはマジで桁違いの予算を組んで、Kコンテンツの輸出に熱心です。中国はコンテンツ輸出では目立っていませんでしたが、世界各国の大学と提携し、孔子学院という中国文化の研究教育機関を設置しています。そこを拠点に自国を有利にしようと働きかけていました。米中対立が激しくなってくる中、この孔子学院を潰す動きもアメリカでは出ています。ちなみに日本にもありますよ。

そういうことが行われている中で、中国政府の意向が入ってしまった大会で、選ばれた中国の作品。読んでないので、正直これがこの疑念に該当するかどうかも判断つかないのですけれども。

日本で書いていたって、つい「企画として通りそうな題材は」とか考えてしまうこともあるので、そういう意味で政府の意向に沿ったものになっているかもしれない。

そんなことはなくて、素直に一生懸命創作に向き合った作品だとすれば、そういう味噌がつけられただけでもかわいそうだなと思います。どっちなんでしょうねえ。

まあとにかく、ヒューゴー賞としては大失態。失った信用を取り戻すことはできるでしょうか。

(ブログ『かってに応援団』24/2/28より転載)

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