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ペンネームとブランディング考

こちらの記事を読みました。

ペンネームを“減点対象”に……江戸川乱歩賞の講評がSNSで議論呼ぶ 「作品だけで評価すべき」などの声 ねとらぼ 24/4/26

ミステリー小説の新人賞、江戸川乱歩賞の中間選考結果が出て、各作品への講評が発表されたのですが、そのうちの一つで、ペンネームが減点対象と触れていたのが話題になっていました。そのペンネームは『がにまた』。確かにユーモラスな名前ではあります。でも、それを理由に減点というのはどうなのかと、賛否両論湧き上がっています。

この件については、記事を読んで初めて知ったのではなく、Xのトレンドに上がっていたのを見かけていました。その時にぱっと思ったのは、上の記事の中にも書かれていること。江戸川乱歩はエドガー・アラン・ポーのもじりなのですが、その名のついた賞で? ということでした。また、別にふざけたわけではなく、元々子供のころからのあだ名で、ずっとそのペンネームで活動していたそうです。

そして記事を読んで、他の人の意見も見直してみて、もう一度じっくり考えてみた結論としては、やはり些事じゃないかなというものでした。中身だけ見るべき。

もしこの作品が賞を取って出版にこぎつけた場合に、そのタイミングでタイトルをいじったり、ペンネームをいじったりできるからです。そしてそれは、よくあることです。そもそも僕がそうだから。

僕の小説デビュー作、『宇宙犬ハッチ― 銀河から来た友だち』は、出版の時にタイトルをいじっています。このタイトルはダジャレなので変えた方がいいんじゃないかという声があったと、打ち合わせの時に言われました。そこで、もうちょっと売れそうなキーワードを入れた真面目なタイトルを提案されたのですが。

この作品を考えていたかなり初期の段階で、このダジャレをひらめいたことにより僕の思考の枠が外れて自由になって内容が確定したので、僕的にはダジャレが超重要。そういう思い入れがあったので、外したくなかった。ということで、副題つけてそれを真面目にすればいいですか、と妥協案を出し乗り切りました。

ペンネームを変えた例も聞いたことがあるので、本当に問題なのであれば、そこで変えればいい。ちなみにタイトルについても減点されてるんですよね。それも含めて、新人賞は素材集めの場なんだから採点基準に入れる必要ないよね、という感想なのです。

さて、前述の通り他の人の意見も見直してみました。僕と同様江戸川乱歩なのに? という感想を持つ人がいる一方、江戸川乱歩はしゃれてるじゃないかという意見もありました。

そこで話をもうちょっと広げて、ペンネームがどうあるべきかということも考えてみました。確かにブランディングとして重要なので、適当につけるのはマイナスだろうなとは思います。ここでもよく触れるテーマとして、いかにお客さんと出会うかということがあるのですが、小説の場合、漫画みたいな内容チラ見せの機会もないし、やってもいまいち効かないので、第一印象は特に重要です。 もう本当に、本の表紙を見た最初のところが勝負になります。

近年やたらと長いタイトルのお話が定着しているのはそのせい。ですから、ペンネームの作り出すイメージも、この作品に何を期待できるのかという重要な情報の一部となり、おろそかにはできません。

そう考えると、江戸川乱歩は、本格推理ものではなくエログロ混じりの変格ものと言われる作品で名をはせた人なので、ちょっと斜に構えた感じのもじりペンネームは合ってる気がする。

ただ、ペンネームには目を引くインパクトというのも同時に重要です。とにかく書いている人が多くて埋もれるからです。その結果か、ネット小説とかだと、わりとインパクト重視の変わったペンネームは多い感じ。なので若い人だと『がにまた』というペンネームもあまり抵抗感ないんじゃないかなという気もします。

結局どの辺の読者層を狙うか、ということで、ブランディングの話に戻りました。どういうところで勝負したいかですよね。

さらにですね、この件を見た時にふと思ったのは、こうやって騒ぎになったらむしろ注目を集めるチャンスなんじゃないのかな、ということでした。そう思ってたら、がにまた先生がカクヨムで公開。

Xへの最初の投稿は、この記事を書くために確認した時には250万ビュー近くありましたし、カクヨムに投稿された作品は、ミステリーの週間ランキングで1位でした。新人賞を取って本が出ても、現在それほど売れるわけではないし、むしろこれはおいしい事態だったのではないでしょうか。知名度がめっちゃ上がった。これで色々できるのでは。

本格ミステリー作家のブランディングとしては、講評の通り変更もありかなとも思うのですが、このままこっちで勝負する手もありますね。どうするのかな。

(ブログ『かってに応援団』24/5/2より転載)

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