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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって… もっと詳しく
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#クローン04

目次

各作品の第1話へのリンクです。 (作者50音順) 神楽坂らせん 宇宙の渚でおてんば娘が大冒険『ちょっと上まで…』 かわせひろし 少年とポンコツロボと宇宙船『キャプテン・ラクトの宇宙船』 道具として生まれ命を搾取されるクローンたち『クローン04』 にぽっくめいきんぐ 汎銀河規模まんじゅうこわい『いないいないもばあのうち』 宇宙人形スイッチくん夫婦の危機を救う『アリストテレスイッチ』 幾つもの世界と揺らぐリアリティ『町本寺門は知っている』 波野發作 銀河商業協同組合勃興記

クローン04 第6話

  六 彼女が私で、私は彼女 「リンスゥ、表の札、ひっくり返しといて」 「はい」  ヤーフェイの指示を受けて、リンスゥは大きく開いた店の正面、その両脇にたたまれた扉に向かう。そこには「営業中」の看板がかかっていた。  その板に手を伸ばし裏返す。すると表示は「準備中」になる。営業時間外だというお知らせだ。  この食堂は正面の壁を全部開けられるようになっていて、晴れた日には店の前にも席を用意している。今日は風もなく一日いい天気で、まさにそういう日和だった。とても貴重な一日だ。

クローン04 第5話

  五 幸せというのか  カーテンごしの朝の光が、やんわりと目覚めをうながした。  リンスゥはうっすらまぶたを開ける。  見慣れぬ天井、見慣れぬ壁、見慣れぬ品々、見慣れぬ部屋。  そうだ、新しい住まいだ。  その認識が、じんわりと意識の表層に浮かび上がってきた。  ゆっくり寝返りを打ち、自分のわきのまっさらなシーツを、そっとさする。その下の布団のやわらかな感触。リンスゥの身体を優しく受け止めている。おかげで深い快適な眠りを得ることができた。  ぐっすりと寝た。  ここ何日か

クローン04 第4話

  四 何で私を  警戒していたはずだった。  シロウから立ち上る、ただ者ではない気配。それはリンスゥが臨戦態勢を取るのに十分なものだった。それだけ警戒していたのだから油断などない。リンスゥの意識がそれたのは、本当に刹那の間だ。コンマ一秒かそれ以下。本来であれば、隙と呼べるほどではない。  それでも背後に回り込まれた。シロウの力量が、リンスゥの想定を上回っていた。  隙ではないはずの一瞬が、致命的な隙となった。身をかわす動作も間に合わず、人体の急所も急所、頸椎に一撃を食った

クローン04 第3話

  三 彼女を放せ 「はい、どーぞ。あり合わせの簡単なものだけど」  目の前に、ふんわりとやわらかく湯気を立てる料理がならべられた。スープに、卵と野菜のいため物。それに白いご飯。  リンスゥが座り込んでいたのは、とある店の裏の、勝手口の前だった。  そこは小さな食堂だった。店構えもそこに並ぶテーブルも古ぼけた、いかにもな安食堂。  だが、床もテーブルもしっかり掃除され、よくみがき込まれていた。壁に張り出された、手書きのメニューの品ぞろえは豊富だ。古くてみすぼらしいのではなく

クローン04 第2話

  二 笑ってる  激しい銃撃戦が続いていた。  深夜に始まった衝突は、拡大の一途をたどった。  手負いのクァンが、脱出かなわずつかまった。尋問により謀略を知った相手組織が、ここでジンロン会をつぶすべきという判断になった。戦場はホテル前から場所を移し、ジンロン会が本拠を構える繁華街に至っていた。  ジンロン会、劣勢である。  本拠地建物の窓ガラスは割れ、壁には多くの弾痕が刻まれている。街路のホロディスプレイは投影装置がこわれたか、おかしな明滅をくり返している。  本拠地一階

クローン04 第1話

  一 ただの道具だから  人は何のために生まれてくるのだろう。  何のために生きているのだろう。  私にはわからない。  私はただの道具だから。  遅くにのぼり始めた欠けた月が、ようやく頭上へと差しかかろうとしていた。  その冷たい光が、一人の女の姿を浮かび上がらせる。  リンスゥは一人、高い壁の上にたたずんでいた。  ここを住処にする野良猫が、見慣れぬ闖入者に警戒の視線を送っている。  はたちを少し過ぎたと思われる整った顔立ち。  ぴたりと密着する闇夜に溶ける濃