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気がつけば、かけ蕎麦を食すクリスマスイヴ

 「今日は、雨降ってますよね」
 外を見ながら私は言った。

 「でも、夜更けに雪になるって聞きましたよ」
 「ああそうなんですか。夜更けに?」
 「そう、夜更け過ぎに」
 「夜更け過ぎに?」
 「そう、雪へと」
 「夜更け過ぎに雪へと?」

 ニヤリ。

 バーカウンターの向こうの奥様が笑った。

 私もニヤリとした。
 世代でしょうね。
 きっとね。

 私たちは無言のニヤリを交わして、そのままツッコミもしなかった。

 先日、新潟の長岡に行ってきた。
 息子が22日~26日まで高校の研修旅行がある。
 息子ができてから、クリスマスを親子一緒に過ごさないなんて初めてだ。寂しくて、夫が「長岡に出張ある」と言うのを「えっ。ついて行きたい!」と、ほぼ反射的に言って決まった。
 一泊。頑張って車で行くから、高速道路代は交通費として出る。ホテル代一人分も、滞在費も少しは出る。あとは私のホテル代、食費くらいが自費で済む。

 今年は、息子の塾代でヒーヒー言っていたので、お互いの里帰りを断念した。塾代で、お互いの里帰り、3年分は費やしたのではないだろうか。
 寂しくてならない。実家の両親の顔も見たければ、お互いの故郷、札幌も宝塚周辺も楽しみたい。友達にだって会いたい。全部我慢だ。
 じゃあ長岡のその一泊、プラス一人分の宿代、食事代、滞在費くらい良いじゃないか。
 なんて思うから貯まらないのかもしれないけど。

 長岡と言えば、北海道で育った私の祖父の、本当の故郷だ。知らない親せきが多くいるのだろう。きっと縁のある街のはずだけど、今回、初めて訪れた。
 夜、お酒の好きな夫は、何度か訪れた長岡で、お気に入りの素敵なバーを見つけたんだと言って、連れて行ってくれた。
 夫婦でやっている所。座って飲んでいると、ダンナさんだけでなく、奥さまも話しかけてきてくれた。大学生くらいのお子さんが二人いると言う。今年は雪が少ない、とお互いの地域の話をしてその後。冒頭の会話になった。
 
 頭の中では「サイレ~ンナア~イ(ト) ホーリーナア~イ(ト)」と山下達郎の声がまだ続いて渦巻いたけど、私はまだ大事なことに気づいていなかった。

 そして翌日、夫が仕事中、駅周辺の施設をウロウロしつつ、周りを見ながら、ふと気づいた。

 「あれっ!! 今日、クリスマスイヴなの?」

 なんてことだろう。

 近いってわかってたけど、まだもう数日あると勝手に思いこんでいた。

 家だと毎年、こだわって華やかな料理を作ってきた。

 夫の仕事が終わって帰り、車の中で話した。
 「ちょっと知ってた?! 今日、クリスマスイヴだってよ!」「らしいですな……」

 

 いやいや「らしいですな」じゃなくてさあ、せっかくだからさあ。晩御飯どうする。

 晩御飯?

 晩御飯は……。

 へぎ蕎麦を食べよう!! おー!

 クリスマスイヴには関係ないけど、そう盛り上がった私たち。ところが一路そのまま高速道路に乗ってしまった。

 そしてサービスエリアで蕎麦を食べた。

 サービスエリアで、へぎ蕎麦なんかあるわけない。私はかけ蕎麦を食べ、気がつけば夫はカツ丼定食を食べていた。

 今日はクリスマスイヴなんだよなあ。

 そう思うと、なんだか面白くなってしまった。
 昨年までは、あんなに(どんなに?)クリスマスイヴの過ごし方にこだわっていたのに。

 夜6時。高速道路のSAでかけそば食べているよ。

 サービスエリアの蕎麦の味って、こんなものだ。とか思いながら。
 食堂は空いていて、仕事途中のおじさんたちがチラホラいる程度。
 

 みんな仕事なんだよな。クリスマスイヴだって仕事しなければならない人たちがたくさんいる。
 この蕎麦を出してくれた元気の良いおばさんも。
 「雨は夜更け過ぎに雪へと変わる」と言ってニヤリとした、感じの良いバーの奥様も。
 そして、ケーキ屋で働いていた若い頃の自分も思い出した。

 誰かが何かを楽しむために、それがたとえささやかなものであっても、誰かが動いている。

 あっ。クリスマスプレゼントは、「アベンジャーズ マーベルヒーロー超全集」でした。やったぞ!

 それで良いのか私。
 いやあもうちょっとそのなんというか……ごにょごにょ……。

 とりあえず、年末年始にでも読み込むー!



#エッセイ #クリスマスイヴ #へぎ蕎麦 #サービスエリア  

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。