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肯定的に受け止められなかった「可愛い」を、けっきょく目指したくなった

 「かわいい」について、私も書いてみようと考えを巡らせていたけど、祖母が亡くなったりでそちらに気持ちが奪われてしまって、気が付いたら締め切りが過ぎていた。

 まあ私は私で個人的に書こう。

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 可愛い「物」は好きだった。
 可愛いと言っても、自分の感性だから、人とは違うかもしれないのは大前提だけど。

 幼い頃。私にとってそれはウサギだったり、何故かロバだったり。シャチの模様。羊のぬいぐるみ。スヌーピーやキキララの雑貨。日本製のプクプクしたシール。ハート型のネクレス。シンデレラの絵が描いてある腕時計。黄色のワンピース。白地に赤の小さな水玉がついたチューリップハット。薄い赤とブルーの花柄プリントのシャツ。

 でも「可愛い」って自分に向けて言われるのが、私はあまり好きじゃなかった。自分に向けられる「可愛い」の意味がよくわからなかったのだ。

 「お兄ちゃんは、〇〇が上手ねえ~」「お兄ちゃんは、△□ねえ~」と母が兄を褒める度、「かせみちゃんは?」と自分について聞いていた。すると「えー……かせみは、普通。かせみは可愛いからそれで良いのよ」。

 可愛いって何なのよ。どんなところがどんな風に可愛いのよ。全然嬉しくない! 

 って思っていた。

 野球選手に憧れたけど、きっと選手は無理だと思って審判員になりたいと思った。テレビで観たモーターボートの選手になりたかった。アニメ「ポパイ」を観たら、オリーブじゃなくポパイになりたくて、ほうれん草を一生懸命食べた。
 男勝りな女性に憧れた。男勝りと言っても、男っぽいサバサバした人ではない。ちょっと昔の、アメリカのコミックに出てくる女性ヒーローのように、色気もあるけど強いタイプ。外見も妄想が膨らんでいた。ポニーテールで、意思が伝わる大きくて表情豊かな目。足が長くて背が高い。

 お気に入りの友達も、お姉さんぽくて、頼りがいがある人ばかり。
 
 小学生くらいになっても、可愛い女の子って、良さがよくわからなかった。好きになる男の子は、可愛い子ばかりだったけど、「可愛い」って私にとっては、幼心に「母性本能をくすぐられる」タイプ。

 中学生くらいになると、顔立ちの可愛さはさすがにわかるようになる。テレビでその基準を満たすタレントや女優を見て「可愛い」と簡単に思うようになった。でも、写真で見る自分の顔がとても「可愛い」基準を満たしているとは思えない。私を可愛いって言う基準てなんなの。私の個性ってなんなの。自分になんにも特徴がないように思えて不満だった。

 高校三年生になる頃、女子校だったのもあって、特定の下級生の子にすごく好かれた。運動部や演劇部の子たちが下級生にモテモテだったのだけど、私は新聞部だ。地味にもほどがあったので、「なんで?」と聞いたら「可愛いからです」って、キャ! な表情と共に伝えられた。
 
 ……。

 変わった好みなんだな。
 心底そう思った。

 しかもその子、私より先に彼氏を作っていた。告白もしていないのに、勝手にフラレたような気分だ。

 大学生になってからは、ちょこちょこ言われるようになったけど、私の場合、どちらかと言えば、下に見られている感じで言われた。
 「かせみちゃんは可愛いよね」「かわせみさん? 可愛いとは思うよ」。
 それは物を知らないとか、妹みたいにしか思えないとか、私に対しては、そんな意味で使われていたのがわかった。
 カラオケで、大人っぽい曲を選んでも「エライ可愛い『〇〇(タイトル)』やな」と友達に言われる。
 英会話教室で、必死に英語の単語を探りながら喋っていたら、先生に「カワイイ」といきなり日本語で言われた。子供を見るような目で。

 私は単に無邪気なだけで、けっきょく子供っぽい。体型だって、中肉中背で普通。足は長くはならず太くなるばかり。ワッサーと多い髪の毛を持て余してポニーテールもできない。「セクシーでカッコイイ」からも、ほど遠い大人になった。

 夫と出会ってから、「可愛い」をようやく肯定的な意味に受け止められるようになった。その「可愛い」には「愛おしい」気持ちが伴っていたのを感じたからだ。

 そして息子ができたら、私の中の「可愛い」感覚が爆発。
 何をしても可愛い。笑うと可愛い。声を出すと可愛い。寝ると可愛い。驚いた顔も可愛い。泣き顔が可愛い。遊ぶのも喋るのも一生懸命な姿が可愛い。何やっても全力なのが可愛い。好奇心いっぱいで何でも聞いてくるのが可愛い。
 親だから顔も可愛いと思うのだけど、何よりも仕草とか表情とか「その様子」が可愛い。

 いつの間にか「可愛い」を、なんの邪念もなくただひたすら肯定的に感じられるように。

 そうなると、子供の頃の自分を振り返って「確かに可愛かったなあ」と思う。ところが、子供の頃からの私に対する「可愛い」の意味がわかってきてから、残念ながら私は「可愛い」と言われなくなっている。
 とりあえず今は、夫からの空々しい「可愛い」より「面白い」の方が、私には嬉しい。それに面白い私を見る時の夫の目が優しい。だからついついお笑い芸人のモノマネを磨いてしまう。最近夫に「かわせみキャツミ」と呼ばれている。(私は大丈夫ですか)

 noteだと、私の恐ろしい失敗の数々を「可愛い」と笑って下さる方はいるけれど。

 あんなに「可愛い」と言われてピンと来なかったのに、今の私は、可愛いおばあちゃんを目指している。数十年後、可愛いって言われるようになるぞー!


#エッセイ #可愛い #可愛いおばあちゃん

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。