機械の体で寝ることになった話

僕には「寝ても寝ても眠い」という悩みがあった。

休みの日の前日深夜0時頃に眠りについたら、
目が覚めるのは次の日の14時頃。
そこから少し遅めのお昼ご飯を済ませた後、布団でゴロゴロしていると
16時頃には自然と寝てしまい、19時頃に目が覚めて夜ご飯を食べる。
「なんだか、今日1日無駄にしたなぁ」と思いながら、
お風呂に入ったりTVを見たりして、その日も深夜0時頃に眠りにつく。

予定のない日は、大体いつもこんなタイムスケジュールで生活していた。
平日は、眠りすぎて仕事に遅刻してしまう事こそなかったが、
仕事中は睡魔に襲われて、無意識にデスクで寝てしまう事も多々あった。

そんな、眠り姫ならぬ眠り王子の僕は、日に日に
「この眠りっぷりは、ちょっとやばいな」と思うようになってくる。

そんな時におぎやはぎの矢作さんがラジオで、
「重度の睡眠時無呼吸症候群と診断されて、CPAPという機械を付けて
寝るようになったら、スッキリ目が覚めるようになった」
という話をしていた。

CPAP。なんとなく知っている。
人工呼吸器みたいな見た目で、ダースベイダーみたいな音が鳴って、
それを装着して寝ている様子は、結構衝撃的なあれだ。

俺、あれを付けて毎日寝るのか?
シューコーシューコー言わせながら寝れるのか?
っていうかそもそも、俺は睡眠時無呼吸症候群なのか?

というような迷いもあったが、同棲している彼女から
「いびきがうるさすぎて、こっちが寝れない」という苦情も入ったので、
とりあえず一度病院に行ってみようと思った。

しかし、どの病院にいけばいいのだろうか。内科?耳鼻科?睡眠科?
と思って調べてみたところ、「グッドスリープクリニック」という
絶対そこに行くべきな名前の病院があったので、早速そこを予約した。

予約した時間に病院へ向かうと、普通の病院と同じように保険証を提出し、
「タバコは吸いますか」「平日と休日の平均睡眠時間は?」
みたいな項目がある問診表に記入し、
待合室で少し待機して、診察室に呼ばれた。
診察室に入ると、少しいかつめのおじさん先生が机の向こうに座っていた。

「どうぞ」

いかつめ先生に促されて、向かいの椅子に座る僕。
すると、いかつめ先生は、僕が記入した問診票を見ながら、
こんなことを聞いてきた

「どんな症状ですか?」
「あ、あの、寝ても寝ても眠気が取れなくて、
 8時間くらい睡眠をとっていても、日中物凄い睡魔に襲われるんです」
「なるほど。その症状で、どのような病名を思い浮かべますか?」

そりゃ、睡眠時無呼吸症候群だろ。僕はそう思った。
っていうかこの病院に来ている時点で、みんなそれを思い浮かべてるだろ。
なんでそんなこと、わざわざ聞くんだよ。

…ん?待てよ?
分かりきっていることを、わざわざ聞くということは、
もしかしたらこの質問は、ひっかけ質問なのかもしれない。

ここで僕がまんまと

「やっぱ、睡眠時無呼吸症候群ですかね~」

なんて言おうもんなら、いかつめ先生は悪い笑みを浮かべながら、

「あー、やっぱそう思っちゃってますよね(笑)
 みんなそう思ってここに来るんですけど、本当は違うんですよ~(笑)」

などと言いながら、受付のお姉さんと一緒に僕を嘲笑うかもしれない。
そんなことをされたら、僕は恥ずかしくて、
二度と病院に行けない体になってしまう。

そんな思いが数秒で頭によぎった僕は、
いじわるいかつめ先生の質問にこう答えた。

「いや~、よく分からないっすね」

するといじわる先生は

「あ、そうですか?
 ちなみに睡眠時無呼吸症候群って聞いたことないですか?」

会話を、睡眠時無呼吸症候群方面へ持っていこうとしている。
完全に俺をハメるつもりだ。くそ、どう返せばいいんだ。
流石に「聞いたことないです」は嘘すぎるし…。
苦し紛れに僕はこう返した

「あー、なんか聞いたことあります。」
「そうですよね。睡眠系の病気で一番有名なのはこれなんですけど、
 その睡眠時無呼吸症候群じゃないかなと思ったことはないですか?」
「あー、まー、なんか、ふわっと考えたことは、あります。」

ハメられた。完全なる誘導尋問だ。
世の中の冤罪はこうやって生まれるのだなと思った。
すると、いんちき先生は即座にこう返した。

「やっぱりそう思いますよね。
 でも、私はこの症状を聞くと、2つの可能性を思い浮かべるんですね。
 1つは、その睡眠時無呼吸症候群の可能性ですね。
 そしてもう1つは、平日と休日の睡眠時間の違いに、
 体が追い付いていない可能性です。」

ほら見たことか。やっぱり僕を嘲笑うつもりだったんだ。
「あなたは完全に後者です。
 睡眠時無呼吸症候群はあなたの妄想です。恥ずかしいですね。」
とでも言いながら、病院にいる人全員で僕を馬鹿にするつもりだ。

すると先生は、

「とりあえず今夜簡易検査をしてもらいます。
 今夜は、これから渡す機械を付けて家で寝てください。」

と僕に言った。

そして僕は睡眠時無呼吸症候群簡易検査キットを受け取って、
家に帰って、受け取った機械を装着して眠りについて、
翌日、僕の睡眠の何らかのデータがかきこまれた簡易検査キットを持って病院に行った。

そして、昨日とは違う、優しめな先生が僕にこう伝えた。

「あなたは完全に、重度な睡眠時無呼吸症候群です。」


つづく。


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