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[ライブレポート]初共演とは思えない魅惑のツインボーカル。二人の歌姫のワールドフェイマスなジャズ・スタンダードを聴きながら世界を巡った珠玉の時間

 しんゆりジャズスクエアvol.56は、「二人の歌姫と巡る世界のジャズ名曲の旅」。演奏予定曲は、ジャズボーカルのスタンダード中のスタンダードがずらりと並ぶ。それを見るだけで、名曲と一緒に世界を旅する想像ができ、期待で胸が膨らむ。

 
 出演はリーダーアルバムが雑誌ジャズ批評にて2016年オーディオディスクアワードvocal部門日本人唯一の7位にノミネートされた、現在は専門学校等で講師を勤めながら様々な場所で演奏活動をしている須田晶子、2014年浅草ジャズコンテストヴォーカル部門でグランプリを受賞し、今までに3枚のアルバムを出し、CMナレーションも手掛ける寝占友梨絵の2人の歌姫。そして美しい音色を持ち味とするピアニスト廣瀬みちる、ソロからビッグバンドまで幅広いスタイルをこなすプレーヤーとして評価が高いギタリスト田辺充邦、ジャズのみならずフォークやクラシック音楽等の演奏にも定評があるベース佐瀬 正、シンガーとして自身のリーダーバンドも定期的に開催するドラマー利光玲奈の6名。

 田辺の物悲し気なアルペジオから始まったインストによる「枯葉(ジョゼフ・コズマ作曲)」では、それぞれの楽器が、挨拶代わりにそれぞれの個性が出たインプロを披露。田辺の軽妙なMCの後、いよいよ2人の歌姫が登場。まず、「I’m Beginning to See the Light(ドン・ジョージ作詞/ジョニーホッジス、デューク・エリントン、ハリー・ジェイムス作曲)」を歌うが、冒頭の掛け合いから、2人の声がとてもよく調和していることに心地よさを感じた。続く「On The Sunny Side Street(ドロシー・フィールズ作詞/ジミー・マクビュー作曲」は、昨年の朝ドラで有名になった名曲で、観客も体を揺らしながらさわやかな歌声に身を委ねていた。歌い終わると、寝占が「(この朝ドラを)知っているミュージシャンが出始めた頃から見るようになったが、すぐについていけなくなった」と、楽しくMC。続いて「I Left My Heart in San Francisco(ダグラス ロス作詞/ジョージ・コーリー作曲)」をしっとりと歌い上げる。目を閉じて青春時代を思い出しているような表情で聴いている観客もいた。そしてビル・エヴァンスが娘のデビィに送った曲「Waltz for Debby(ジーン・リース作詞/ビル・エヴァンス作曲)」。エヴァンスのデビィへの愛が伝わるかのように、心が温かくなっていく気がした。

 その後のMCでは、2人が一緒に歌うのは今日が初めてという話で盛り上がり、「何年も一緒にやっているようじゃありませんか?」の田辺の問いかけに、会場から大きな拍手。「1曲目のリハーサルではスタッフが『こだまが聴こえる』と言うので見ると、二人が交互に歌っていた」といったエピソードに、多くの観客が頷いていた。そんな2人に田辺から「スキャット」のリクエスト。1部最後は、アントニオ・カルロス・ジョビンの「One Note Samba(アントニオ・カルロス・ジョビン・ニュウトン・メンドーサ詞/曲)」にのって、2人の美しく、ワクワクさせるスキャットが大いに会場を沸かせた。

 第2部は、「男と女(フランシス・レイ曲)」のインストからのスタート。原曲は「ダバダバダ・・・」というスキャットが有名だが、ギターがまるでスキャットが聴こえるかのように穏やかな音色で演奏していたのが印象的。ピアノの押さえた感じの洒落たインプロも素敵だった。

 再び歌姫が登場し、「Lullaby of Birdland(B・Y・フォースター作詞/ジョージ・シアリング作曲」をクールに歌い上げ、魅惑的で静かな夜の雰囲気をつくりだした。続いての「ムーンリバー(ジョニー・マーサー作詞/ヘンリー・マンシーニ作曲」は、田辺のアレンジで。美しい星の中で静かに輝いている月を思わせるアレンジで、その世界観に引き込まれた。紺色がかったグラデーションの照明に照らされて、囁くように歌う情感たっぷりの2人のボーカルが素晴らしかった。

 続いての「Mr.paganini(サム・コスロウ作詞/作曲」。この曲はエラ・フィッツジェラルドのスキャットの原点と言われた曲だが、須田と寝占が参考にしたのは、ナタリー・コールだったという。演奏はスィンギーに進みながら、織り交ぜられる2人のスキャットが絶品で、ステージから目を離せなかった。

 ラストは、「Take Me Home,Country Roads(ジョン・デンバー、ビル・ダノフ、タフィー・ナイバート作詞/作曲)」。冒頭の有名なフレーズのハーモニーの美しさから演奏に釘付けで、バックの軽快な演奏にのって、気が付くと大きな拍手が起こっていた。

 アンコールは「Smile(ジョン・ターナー、レフリー・パーソンズ作詞/チャールズ・チャップリン作曲)」。須田が「どんな時にでも笑顔を絶やさなければ、人生に価値というものを生み出せるよ」という歌詞の紹介をし笑顔を絶やさずにこのコンサートで歌えたことへの感謝を語った。一言一言語りかけるように歌い、ラストは掛け合いながら美しいハーモニーを聴かせた二人、そしてバンドに再び大きな拍手が送られてライブ終了。誰もが心に温かいものをもらったと感じて帰途についたことだろう。

 
  ワールドフェイマスなナンバーを数多く、新鮮な「ツインボーカル」という形で聴くことができたことで、本当に世界を巡っているような夢見心地になった。二人の歌姫は、本当に今回初共演とは思えない素晴らしいパフォーマンスで、美しい音で楽曲を彩った廣瀬のピアノ、田辺の情感あふれるギターにバンドを支える佐瀬の豊かなベース、少し小ぶりのドラムセットで雰囲気を大切にたたく利光との相性も良かった。かわさきJAZZがきっかけで、活動を始めたバンドもあると聴く。是非、このシリーズも続けていってもらいたいと心の底から思った。

Text by 小町谷 聖(かわさきジャズ公認レポーター)

公演概要

かわさきジャズ2022
しんゆりジャズスクエアvol.56
二人の歌姫と巡る世界のジャズ名曲の旅
情感豊かにご存じの曲を聴きながら旅行気分は如何ですか?

2022年11月11日(金)@川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
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