[ライブレポート]菅野浩がいざなうポール・デスモンドの世界
菅野浩(A.sax)、紅野智彦(P)、佐瀬正(B)、利光玲奈(Dr)、田辺充邦(Gt)が11月10日に川崎市アートセンターアルテリオ小劇場にて【しんゆりジャズスクエアvol.61名曲テイクファイブで人気を博したアルトサックス奏者ポール・デスモンドの演奏が蘇る!】を開催した。
今年で9回目を迎える【かわさきジャズ】のホール公演の中で、ジャズ史に残るレジェンドたちの楽曲が生演奏で楽しめる【しんゆりジャズスクエア】。19時になり、オーディエンスの大きな拍手のなか、バンドメンバーがステージに姿を現すと、菅野による「ワン、ツー」のカウントから「When Joanna Loved Me」を披露する。
菅野の温かくのびやかなアルトサックスと、紅野の左足でリズムを刻みながら奏でるピアノのメロディーが心地良く、「これから、どんな世界に連れていってくれるのだろうか」と胸が躍る。
「どうも、こんばんは!今日は、お越し頂きありがとうございます」と菅野が挨拶し、この公演のお話を頂いたのが昨年だったというエピソードに続いて、ポールが所属していたデイヴ・ブルーベック・カルテットのベーシスト、ユージン・ライト作曲による「Rude Old Man」を披露。メンバー紹介後は菅野と田辺の魅惑的な演奏から始まり、佐瀬と利光がスパイシーなサウンドで優しく支える「Black Orpheus」で魅了。続いて披露されたロマンティックなナンバー「Emily」では、メンバーそれぞれがアイコンタクトする姿がとても印象的だった。
観客の温かい拍手を受け、田辺は「いいですね!バンド一同やられてしまいました!ポールが(ここに)いると思って。」と大絶賛。菅野のアルバム紹介の際には、田辺が「人数分、持ってきています!」と言いオーディエンスの笑いを誘う場面も。そして、前半戦の締めくくりは、多くのアーティストにカバーされる名曲「Alone Together」。佐瀬の重厚なベースサウンドと利光の軽快なドラムが力強く響き合い、歌っているかのような存在感で魅せる菅野のアルトサックスが会場全体を包み込んでいく。
休憩を挟み、後半戦はポール・デスモンドの名曲「Take Five」からスタート。象徴的なピアノのイントロに始まり、まろやかで品のあるサウンドに酔いしれる。利光の情熱的なドラムソロでは、その姿をメンバーの四人が見守る場面も。続いて、菅野の大先輩である宮野裕司(A.sax)と組んでいるバンド、ALTO TALKSを紹介し、「Wendy」へ。アルトサックスの穏やかな音色と紅野が奏でる高音のピアノサウンドがまるでひだまりのように優しく包み込んでくれる。また、田辺のギターソロに「星に願いを」のフレーズが散りばめられているのも、嬉しくなった。
菅野が「田辺がジム・ホールに見えてきた!」と語り会場を和ませると、アルトサックスのマウスピースにまつわる裏話や田辺のラジオ番組などを紹介。そして、ポール・デスモンドのボサノヴァ・ナンバーを集めたアルバムの中から「Bossa Antigua」に続き、菅野のカウントから始まる「Late Lament」へ。深みを感じるバラード・ナンバーが胸に染み入る。そして、「先ほど、お話した宮野に加え、奥野裕太(A.sax)とベースとドラムのバンドで演奏している曲「Sometimes I'm Happy」を最後にお送りします。今日は、ありがとうございました!」と話し、コンサートはクライマックスへ。ピンク色に輝く照明の下、利光のリズミカルなドラムが響き、明るく楽しい曲調が展開されていく。田辺はオーディエンスを見つめながら演奏したり、再びソロでは「バロック・ホウダウン」の一節を披露するなど、小粋な演出で楽しませてくれる。
アンコール曲「Just squeeze me」では、透き通るように美しい高音のアルトサックスがグリーンの照明とマッチし、まるでのどかな田園風景のよう。感謝の言葉に続き、菅野がもう一度メンバー紹介をすると、オーディエンスの拍手も盛り上がりも最高潮に。全編を通じ、菅野の歌うようなアルトサックスは彼の繊細な人柄が音に表れているのだと感じた。また、MCで菅野が「楽しいな!」と話していた通り、終始、演奏を楽しんでいたのがとても印象的に残った。素晴らしい演奏を見せてくれた五人に心からありがとうを伝えたい。
Text by Chisato(かわさきジャズ公認レポーター)
●公演情報
しんゆりジャズスクエアvol.61
名曲テイクファイブで人気を博したアルトサックス奏者ポール・デスモンドの演奏が蘇る!
日時:2023年11月10日(金)時間開演19:00
会場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場