アドベントリレー小説12日目

「アドベントリレー小説」とは、25人の筆者がリレー形式で1つの小説を紡いでいく企画です。
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『緋色のヒーロー』#12

「……じゃあ行こうか!ちひろ、じゃなくてカナコちゃん!」
「!?きっ気付いていたの!?」
ちひろに扮していたカナコは、そう叫ぶや否や隠し持っていた青い粉を俺に投げつけてきた。
「おいおい。こんな危険物質を街中でぶちまけるなよ」
「え……!?な、なんでこの粉を被って錯乱しないのよ!?」
「なぜって、それは俺が既に曝露者だからさ」

そう、本来この青い雪の原因物質である粉、蒼時硝<ブルー サンド グラス> に曝露した者は通常錯乱状態に陥る。これは意識が永劫のループに捕らわれたことで精神崩壊をした結果である。
曝露者視点では、青い雪に曝露した時点では何も気付かず当然錯乱もせず、その摂取量に応じた周期が訪れたときに初めてループが発生する。このときループ、つまり過去に戻るのは意識のみで肉体は別である。そして肉体を動かすことも出来ない。つまり、ループ中は一度体験したことをただ見ることしかできず、時間軸に変化を与えることができない。唯一変化を与えることになるのが「錯乱」である。
「錯乱」とは、精神力・SAN値・MPと言い換えることもできる心に宿る炎、すなわち 炎心<ヒート オブ ハート> が燃え尽きた状態だ。この「錯乱」状態になって初めて時間軸に変化が生まれ、肉体も意識と同じく錯乱した状態となる。曝露者以外が観測できるのはこの錯乱した状態のみで、曝露者が錯乱せずに行動していた”一周目”の時間軸を観測することはできない。
また、ループ周期よりも先の時間において曝露者は錯乱状態から意識不明へとなる。これは錯乱していても意識は周期をループし続けるため、先の時間に意識が存在しないからだ。つまり、曝露者は一定期間錯乱した後に突然意識不明となり倒れる。そのときに周囲の人間が対応できるためにアズールカウンターが配布されている。

その曝露者の証であるアズールカウンターを取り出し、カナコに見せつける。
「どうして錯乱していないのかわからないけれど、曝露しているのなら関係ない。お姉ちゃんの仇!拳銃火<ガントレット ガンファイア>!」
カナコが銃の形にした手から炎を噴出してくる。「緋色のヒーロー」の能力だ。完全なる不意討ちではあるが、俺はそれを颯爽と躱す。『蒼時硝<ブルー サンド グラス> で曝露させた後、緋色の炎で概念ごと焼き尽くす』という彼女の作戦を、俺は5ループ前に聞きだしている。
「カナコちゃん、落ち着いて話を聞いてくれ。君の力が必要なんだ!」
「うるさい!お前さえいなければ!お姉ちゃんは!」
そう叫ぶと彼女の体は緋色の炎で包まれた。それは、まさに心から溢れ出た炎心<ヒート オブ ハート> そのものだ。

一般人より 炎心<ヒート オブ ハート> の力が強い者が「緋色のヒーロー」となるわけだが、俺もその該当者だった。むしろ誰よりも先に「緋色のヒーロー」として活動したと言える。そして一番最初に 蒼時硝<ブルー サンド グラス> に曝露した者でもある。
俺は曝露の影響に気付き、能力を発動した。恐炎中<インサイド レッド>。体内で増え続ける 蒼時硝<ブルー サンド グラス> を、炎心<ヒート オブ ハート> で燃やし続ける技だ。これにより、俺は曝露者でありながら、自由に曝露を帳消しすることが可能になった。本来ループ中に肉体を自由に動かせず時間軸に変化を与えることが出来ないが、俺はこの技でループをしながら肉体の操作権を取り戻し、時間軸を変化させている。「緋色のヒーロー」に燃やされそうになったら 恐炎中<インサイド レッド> を弱め即時ループを発動させて過去に逃げやり直したこともあった。何度だってやり直す。ちひろを救うまでは。そのためにも今回は…!

カナコちゃんは、炎を駆使して渋谷の空へと飛んでいく。俺は既に知っている。これは、俺一人を殺すのに失敗したときのバックアッププランにして自暴自棄の自爆技だ。前ループはこれが回避できず、緊急ループをせざるを得なかった。ただ、今回は対策を打ってある。
「ひろしくん、お前のことだけは、絶対に許せない。百九散火<ハンドレッド ナイン スプレッド>!!!!」
上空から無数に拡散された緋色の焔玉が、渋谷一体に降り注ぐ。俺はその絶望的な技を確認し、渋谷中に仕込んだ仕掛けを発動させる。
「洪砂天<スクランブル ブリザード>!!!!!」
青い砂を抑えるのが緋色の炎なら、緋色の炎を抑えるのもまた青い砂なのである。渋谷中に仕込んだ砂が一気に噴出し、カナコちゃんの炎を弱める。ついさっき自分で「危険物質をぶちまけるな」と言ったそばからこんな無差別テロを実行するのは気が引けたが、関係ない。どうせこのループはやり直すことが確定しているのだ。

「カナコちゃん!聞いてくれ!忘れもしない、あの2019年。あの青い雪が降り、ちひろが炎に包まれ消えたあの日!俺とちひろは世界を救うはずだった。疫病が蔓延し人類が滅亡する世界を回避するためには必要だったんだ!」
「と、突然何の話ですか!疫病?そんなの知りません!」
「そう、実際に俺たちは回避することに成功したんだ。カナコちゃんが知らないこと自体がまさに成功した証なんだ。でも、想定外のことが起きて、代わりにちひろは炎に包まれ消えてしまった。俺はループの力を使って、何度もやり直して、何度も失敗している。成功させるには、カナコちゃん、君の力が要るんだ」
「ループ……?やりなおす……?」
「緋色のヒーローである君なら、俺と同じように曝露しても発狂せず自在にループできるはずなんだ。これを飲み込んでくれ!」
そういって俺は、カナコちゃんに宝石を投げる。火蒼玉<ザ ファイア>。本来ループは曝露した瞬間がループの最初になる。しかし、俺の中から抽出したこの宝石であれば、曝露よりもある程度前に戻れるはずだ。
「わかった。お姉ちゃんを助けられるなら、お前のことをもう一度だけ信じてやる」

カナコちゃんが 火蒼玉<ザ ファイア> を飲み込んだのを見届け、俺は 恐炎中<インサイド レッド> を調整する。体内の 蒼時硝<ブルー サンド グラス> 量に反応するアズールカウンターの表示が一気に進み、0を示すと同時にループが始まった。
俺は何度目かわからないあの始まりの日へと戻る。
1999年7月。恐怖の大王<テリブル- ロック クロック> と呼ばれた、 巨大な蒼時硝<ブルー サンド グラス> で出来た隕石が襲来した日へ。それを俺が一人で燃やし、燃やし尽くせなかった欠片を体内に取り込んで、世界を救ったあの日へ。

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