#アドベントリレー小説 13日目

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緋色のヒーロー #13


トンネルを抜けても雪は降らない。「あの刻」はまだ訪れていないからだ。

一瞬の立ちくらみの後、急に右手に質量を感じる。あわてて落とさないようにバランスをとると、それは半分中身の入ったマグカップだった。
本来なら朝起きた瞬間にまで戻るはずなのだが、俺はコーヒーを飲みはじめてやっと覚醒度が閾値に達するらしい。こんな微妙なタイミングに戻されるたびに、自分が朝に弱いことを呪う。

ぬるいコーヒーを一気に飲み干して、マグをテーブルに置く。まだはっきりしない意識に、苦みが記憶の輪郭を描き出す。視界が鮮明になってきた。今俺がいるのは六畳一間の秘密基地……といえば聞こえがいいが、その実際はバカみたいに小さい窓とドアが1つずつついたコンクリート打ちっぱなしの立方体である。

今日は1999年、7月、31日。恐怖の大王は、締め切り直前に頑張るタイプだった。

壁に埋め込まれたブラウン管の前に立つと、ひとりでに電源が入り、対話型エージェントが起動する。音声認識・人工知能・音声合成ともに、当時の技術を完全に超えた代物だ。研究所はかなり予算をつぎ込んだと聞いている。

「おけぇりヒーロー!今回こんけぇで19931回目けぇめのループだな!で?進展はあったのか?」

予算を持て余したからといって、合成元の音声を大枚はたいてこの人野沢雅子に依頼するのは理解に苦しむが。上層部によっぽどのファンがいたのだろうか。

「ダメだ、また止められなかった。2019年での滅亡の回避まではうまくいったんだが……」
「ここ数回すうけぇはおんなじ失敗しっぺぇばっかりだなオメェ!ヒーロー失格だぞ!なんか対策てぇさくしねぇのか?」
「してるさ。今回はもう1人連れてきた」
「何いってんだオメェ?ここにはオメェ1人しかいねえじゃねえか」
「|火蒼玉<ザファイア>で無理やり連れ込んだもんでな。数時間くらい到着がズレていてもおかしくない」
「ひゃー!オメェが仲間を連れてくるなんて初めてじゃねぇか!そんなに強ぇやつなのか?」
「あいつの炎心<ヒートオブハート>は一級品だ、きっと未来を変えてくれるさ。到着したらロビーに案内してやってくれ、俺は先に出る」
「おめぇがアイツ以外のヒーローを信じるなんててぇしたもんだな!蒼時硝<ベレェセンデゲレセ>への暴露処理は要らねぇのか?」
「不要だ。まだその時じゃない」

エージェントに見送られながら部屋を出て、研究所のロビーへ続く廊下を歩く。カナコが来る前にやっておくべきことがある。


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