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読めないメモ、聞きとれない言葉、家族の会話

家計簿をつけていた夫が身をよじっていた。
「お父さん何してるの?どうしたの?」
「おくごよえいち」
「は?なに言ってるか聞きとれないんだけど」
「おくごよえいち」
「なんだって?」
「あー。もう。お母さんの書いたメモが読めないんだよう!」
メモを見にいくと、
「この一番下。おくごよえいちって何?」
謎が解け、笑いをこらえて声を絞り出した。
「・・・みずごよみ」
「は?」
「み、水ごよみ」
「何それ?」
「六花亭のおいしい水ようかんです。昨日の法事のお供えに持ってったでしょ」
「知らん。見てない。ていうか、ええ〜?二文字しか合ってないし」
「なんでカタカナひらがなアルファベット混ざってると思うの??」
「知らんがな。これどう見ても『み』には見えんし」
「そう?」
ここでこどもが、なになに?なんの話?って見に来て
「・・・『水』はともかく『み』はちょっとどうかな」
たしかに「み」の丸のとこつぶれてるけど、読めないかなあ。でも、
読み間違うにしても「オくごよH」ってすごい。謎解きみたいな謎の言葉。

普段、話していても、お互い聞き間違いは多い。
夫は滑舌が良くなくて、ニョロニョロがノロノロになっちゃうくらいで、
しかも早口なので、何か言ってる、と思った頃には言い終わっている。
私は声が小さく、ぼそぼそしゃべるから、聞き取ってもらえない率が高い。

「お風呂場の照明がさぁ」
「昆布茶の証明?」
「は?なんで昆布茶?昆布茶ないよ」
「え?無いの!?」
「出てきたこと無いでしょ。ていうか証明ってなにを証明するの?」
「知らんけど塩分とかなんかやろ?」
くらいの聞き間違いが毎日のように起きている。おもしろいからいいけど。
こどもはなぜか父母どちらも聞き取れる。
「ちゃんと〇〇って言ってるじゃないか」と冷静。
お父さんとお母さんのバイリンガルだね、ということになった。

こどもは声量もあり発音もくっきりしているけど、5歳くらいから吃音がある。
いつも出るわけじゃなく、何か話したいことがあって、興奮気味で、
言いたいことを言葉にするのが追いつかないような時に出るみたいだ。
文の真ん中で音が繰り返すのが多い。
「まあ、そういうふ、風、風、風に、風になっててててなってるから」とか
「そういうことだから、から、から、だから、ことだから」とかいう感じに。
でも、本人も私も夫も、全然気にしてない。
漫画やドラマで、驚いたときのセリフが「ま、まさか」となるような、
それに似たことが起きているんじゃないか?と思ったりしている。

三人三様のしゃべり方で言いたいことを言って話題がポンポンとぶ。
この前は、こどもが夫にマイクラの話をわーっと話し、
一瞬とぎれた隙に私が夫に教育関係の記事のことを話し、
私の話が切れた瞬間にまたこどもがマイクラの話を始め、
隙を見てまた私が明日の夫の予定を尋ね、またこどもが、と交互にしゃべり、
「お母さんの話がコマーシャルみたいに入ってくる〜」と夫が笑い転げていた。