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祖母の肩のカマキリ

そのとき私は2歳くらいだった気がする。
お昼ごはんの前に庭いじりから戻ってきた祖父母が
床に座ってソファにもたれ、のんびりとテレビを見ていた。
なんとなくその辺を歩き回っていた私は、
ちょうど目の高さの祖母の肩に小さなカマキリを見つけた。
そういう種類なのかこどもなのか、2cmくらいしかなく、
透けるようなきみどり色をしていた。
きれいだな、と思った。
でも、祖母には教えたほうがいいかもしれない、と思い、
「ばあちゃんの肩に小さいカマキリが止まっとる」
と言ったのだが、祖母は一度で聞き取ってはくれなかった。
「ん?なに?」
まずは話しかけられたのに気づいただけだった。
「ばあちゃんの肩に小さいカマキリが止まっとるよ」
「はあ?もういっかい言って」
「ばあちゃんの、肩に、小さいカマキリが止まっとる!」
祖母はなかなかわからないようでついに母を呼んだ。
「ほーい、この子なに言っとるかわかりゃへん。ちょっと来てー」
ごはんの支度をしてた母が「はあー?」って言いながら来た。
「この子がなんか、いっしょうけんで言っとるだけど、何て言っとる?」
こんどは母に向けて言ってみる。
「ばあちゃんの肩に小さいカマキリが止まっとる」
母は聞き慣れてるからいっぺんで聞き取ってくれた。あわて気味に、
「お母ちゃんの肩にカマキリが止まっとるって!」
そして祖母も母の言葉はいっぺんで聞き取った。
「は?ひゃー!どこどこ?お父ちゃん、取って!」
祖父は「お?おお」とカマキリをつまむと窓から庭へ放り投げた。
祖母は落ち着いてくると、
「ああ、びっくりしたやあ。なに言っとるかと思ったら、もう」
と言いながらまたテレビを見始め、祖父に
「こどもは目がいいだねえ」
などと言っていた。
私は、自分ではきっちりしゃべってるつもりだけど、
まだうまく話せてないのかなあ?ともどかしく思った。