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山城賛歌

山城の竹林の隙間からお寺の大屋根が見下ろせた。
山を下りお寺の朱の楼門をくぐるとき
門の右隣の空き地の中を
軽トラックが弧を描きながら
でこぼこの土の上を走っていた
「何やってんの?!」と、小学生くらいの弟の方が空き地の端から言った。
「地ならししてんの!」と、大学生くらいの兄の方が言って、
運転席からこちらを見た。
その視線には何やら敵意のようなものが
滲み出ているようだった。
こちらも相手が嫌になった
本殿まで、両脇に白い干支の彫り物が列ぶ、急な階段を上って行った
まだ午後三時だというのに、御扉は閉まっていたので、心うちだけ御参りをした。
階段を下りると、広い境内に一本の紅梅が咲いていた。
満開に近く、赤く染まっていた。
すると後ろから
「おーい、乗ってくかあー」と、さきほどの兄の方が、弟に言っているのが聞こえた
弟は軽トラの荷台の上に乗って泥と一緒に運ばれてきた。
私が紅梅から離れて振り向くと、兄弟は境内の落ち葉や枯枝を火に焚べている。
白い煙がもうもうと山城の方へのぼっていった。
青空に山城の輪郭が浮かび上がった。





人の忘れた山城に
足を踏み入れ思い出す
宴の踊りと観音に
花を供える幼子を


古池のほとりに群れる水仙の
匂いは冥土の入口か
池や梅や水仙や
寂然とした池の儚さよ




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