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詩集

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練習帖ですが、よければご覧ください。
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#詩のようなもの

母の姿

春の日溜まりで 色とりどりに咲く 窓辺のパンジーを 体を縮めて見ている 母の姿 強い日差しに照らされ 光り輝く いつかは消えゆくその姿 私がこの世を去るときに この一時も連れて行こうか うららかな春と一緒に

夢の丘

夢の月の丘は まあ、きれいなバラの花が 咲き乱れていること あのきれいな人の 白く細い腕 穏やかな川が 真珠色に輝いている なだらかな芝の丘の 月の光よ まどろみの中で それは一つになるだろう 鏡の破片を 一枚の鏡にするように 夢よ 不在の私をいつも何処へと つれてゆくのだ

〈詩〉大きな木

春の息吹とともに小さな芽が 他のたくさん生まれる芽の中に混じって ひょっこり顔を出した さんさんと太陽を受けた静かな土地の 最後の光が落ちる時 父親の固い意思のような風と 母親の愛撫のような夕陽を浴びて その芽はやがて立派な大木になった 汽車が汽笛を鳴らす時、大木はざわめいた 大木はどんな風雨にも酷暑にも耐えた 大木の木陰でいくらかでも涼もうと 子供たちがやって来た 「ほらそっちだ」 「走れよう」 子供たちはボールを投げて、打っては、走った 遊び

〈詩〉ドロスの世界

永遠の中の瞬間に 雪がちらちら舞って 黄金の木から羽ばたく夢来鳥 手探りで探し出した埃まみれの扉 開けるとそこには鏡 ああ、哀しき人間のさが 洞穴の松明の火に 照らされた壁画 果てなく続く夜の大地 銀色に輝くタワー 遠近法の直線の上を 曲芸師が渡って行った

海の音楽

浜に降り立つと 海の轟が 頭の中をつんざいて 目を見えなくし うまく聞くことも出来ずに 頭をくらくらにさせる それが カリフォルニアの方から聞こえてきて 約六十年前の トランペットのかすれる音や ヒッピーの歓声や 黒人の教会の賛美歌の音が いっしょくたになり カラフルな色彩を帯び 長い年月を経て たった今 海の音楽に変わったんだ

お母さん

お母さんが あなたに与えられることはごくわずか でも ご飯の支度や 幼稚園に連れて行ってあげたり お話も聞いてあげられる 将来の夢の計画も、どんなお母さんにも負けない あなたがお母さんとの思い出を忘れても お母さんはずっと記憶に留めていられる あなたが体調を崩さないように見守っていられる だからお母さんは悲しい 愛とは何か知らないことが あなたがお母さんの背中に腕をまわして ぎゅっとしても、お母さんの心はからっぽのまま おかえしに、何かあげたいとは

山城賛歌

山城の竹林の隙間からお寺の大屋根が見下ろせた。 山を下りお寺の朱の楼門をくぐるとき 門の右隣の空き地の中を 軽トラックが弧を描きながら でこぼこの土の上を走っていた 「何やってんの?!」と、小学生くらいの弟の方が空き地の端から言った。 「地ならししてんの!」と、大学生くらいの兄の方が言って、 運転席からこちらを見た。 その視線には何やら敵意のようなものが 滲み出ているようだった。 こちらも相手が嫌になった 本殿まで、両脇に白い干支の彫り物が列ぶ、急な階段を上って行った まだ午

〈詩〉 時

いつかのさよなら それは明日 花水木の白 それは昨日 祭りの思い出 それは明後日 深海 それは今日