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詩集

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練習帖ですが、よければご覧ください。
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2023年10月の記事一覧

ある別れぎわ

「じゃあまたね」とあなたは言った あなたの影は優しく伸びて タクシーのきらびやかなホイールに反射して 虹になった

ある朝のできごと

壁の中の君に コーヒーを淹れようと 返ってくる返事はとてもそっけなく 「わたしにかまわないでちょうだい」 とのこと

つくりあげたもの

父と母は喜びに喜んだ 新しい家が建ったんだ! 重厚な鉄の模様の玄関や ゴルフが楽しめそうな広々とした庭。 二人は庭でダンスする! そして夕陽が部屋に差し込み ダンスは終わり 夕凪が草の香りを運ぶ 思い出の家は永遠に変わらぬまま この部屋の壁の夕陽とともにある

代弁者

田舎の虫の音が響き渡る夜 一台の改造バイクがけたたましく夜を引き裂き その声はまるで かれの孤独の叫びを 代弁しているようであった それは救いようもなく 絶望的であった

死人

心が死んだとき 巨大な手が空から現れて 私の心臓を大きな穴に埋めた 私は穴の淵に立って その様を眺めていた 心臓は私に入っていたときの 十倍ほどの大きさになっていて さも、楽しそうに鼓動を打ち続けていた 残された肉体は 古い自転車に乗って 坂を下って行った

茜色の太陽

茜色に染まる太陽が すすきの群生を撫でると 穂はなびき 光はたゆたう 夕陽が孤独の人の遠くの影を 悪戯にもて遊んだ 孤独の人の腕にはいっぱいの真っ赤な落ち葉 それを澄みわたる青空に放り投げた 葉はひらひらと光を溜めて 孤独な人の足元に落ちた それが長い旅路の 幕引きだった

カラスがかあかあ鳴いている

カラスがかあかあ鳴いている カラスは夜明けとともに目を覚まし かあかあかあかあ鳴いている 朝は犬に向かって 昼間は青空に向かって 黒い翼を広げて 追い回したり 追い回されたりするうちに 日は傾いて カラスは電柱のてっぺんで 夕陽に向かって かあかあ鳴いて 夜が来ると 深い森に飛び去った また朝が来て 電柱のてっぺんで かあかあ鳴いて 日は暮れる そんな風に 生きられたのなら しあわせだろう カラスのように かあかあ鳴いて…

カラスがかあかあ鳴いている(2)

昼休みあいつが一人飯食ってるから 話かけてやろうと思って 近づいていったら あいつ 変な目でこっち見るもんだから 仲間と音楽室まで連れてって いつものように絞めてやったんだ そうしたらあいつ次の日から 学校来なくなったもんだから、 心配したんだけど いつの間にか忘れちまってたね それからしばらくして あいつが来ると でかいカラスになって 席に平然と座っていやがった 黒い嘴を黒板に向けたまま 微動だりしないわけよ 近くまで行って 黒い丸い目ん