ショートショートSF【肉の夢】

原題げんだい："They are made of meat" by Terry Bisson, 1991
日訳にちやく：川音かわねリオ@KawaneRio@misskey.io
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「彼かれらは肉にくでできているんだ」

「ニクにく？」

「肉にく。彼かれらは肉にくでできている」

「肉にく？」

「疑うたがう余地よちはない。我々われわれは惑星わくせいのさまざまな地域ちいきからいくつかを選えらび、我々われわれの偵察ていさつ船せんに乗のせ、徹底的てっていてきに調しらべた。彼かれらは完全かんぜんに肉にくだ」

「それはありえない。無線むせん信号しんごうはどうなる？星々ほしぼしへのメッセージは？」

「彼かれらは電波でんぱを使つかって話はなすが、信号しんごうは彼かれらから出でているわけではない。信号しんごうは機械きかいから来きている」

「それじゃあ機械きかいを作つくったのは誰だれなんだ？我々われわれが連絡れんらくを取とりたい相手あいてはそっちだろ？」

「彼かれらだ。さっきから何度なんども言いっているだろう。肉にくが機械きかいを作つくったんだ」

「そんな馬鹿ばかな話はなしがあるわけない。そもそも肉にくが機械きかいを作つくれるなんてどう考かんがえてもおかしいだろ。貴方あなたは私わたしに意識いしきを持もつ肉にくを信しんじろと言いっているのか？」

「ああそうだ。これらの生物せいぶつがこの宇宙うちゅう領域りょういきにて唯一ゆいいつの知性ちせいを持もつ種しゅであり、彼かれらは全員ぜんいん肉にくでできているんだ」

「もしかしたら彼かれらはオルフォレイのようなものかもしれない。肉にくの成長せいちょう段階だんかいも存在そんざいするが、成熟せいじゅくすると完全かんぜんな炭素たんそ体たいとなる⸻」

「違ちがう。彼かれらは肉にくとして生うまれ、肉にくとして死しぬ。肉にくの寿命じゅみょうを知しってるか？何なに世代せだいか観察かんさつしたが、長ながくはないぞ」

「勘弁かんべんしてくれよ。あっ、わかったぞ。たぶん彼かれらは部分的ぶぶんてきに肉にくなんだ。きっと肉にくの頭部とうぶの内側うちがわには、ウェディレイと似にた電気でんきプラズマの脳のうがあるに違ちがいな⸻」

「違ちがう。ウェディレイのような肉にくの頭部とうぶを持もっているからその可能性かのうせいも考慮こうりょし、徹底的てっていてきに調査ちょうさをしたが、違ちがうんだ。彼かれらは完全かんぜんに肉にくだ」

「脳のうがないのか？」

「いや、脳のうはある。だが、その脳のうさえも肉にくでできているんだ！」

「いやだから…思考しこうを司つかさどっている物ものは何なになんだ？」

「あなたは理解りかいしていないようだね。思考しこうを司つかさどるのが脳のう… それが肉にくなんだ」

「思考しこうする肉にく！私わたしに思考しこうする肉にくを信しんじろとでも言いうのか！？」

「そう、思考しこうする肉にく！意識いしきを持もつ肉にく！愛あいをする肉にく。夢ゆめを見みる肉にく。肉にくこそが全すべてだ！」

「本気ほんきかよ…そうか…彼かれらは肉にくでできているのか…」

「やっとわかってきたようだな。彼かれらは確実かくじつに肉にくでできている。そして彼かれらはほぼ百ひゃく肉にく年間ねんかん、私わたしたちと連絡れんらくを取とろうとしてきた」

「はぁ…で、その肉にくは何なにが欲ほしいと」

「まず、我々われわれと対話たいわすることを欲求よっきゅうしている。そしてまぁ、宇宙うちゅうを探索たんさくし、他ほかの知的生命体ちてきせいめいたいと連絡れんらくを取とり、情報共有じょうほうきょうゆうしたいとでも考かんがえてるんだろう。いつものやつだ」

「我々われわれは肉にくと話はなすつもりなのか？」

「そうだな。少すくなくとも、彼かれらが電波でんぱで発信はっしんしているメッセージは『こんにちは、こんにちは。誰だれかいる？誰だれかいる？』って感かんじだからな」

「話はなせるのか… 言葉ことばやイデア、概念がいねんを使つかって？」

「そうだ。ただし、彼かれらは肉にくを使つかって話はなすんだ」

「さっき電波でんぱを使つかっているって」

「電波でんぱは使つかうが、その電波でんぱで流ながれてくる信号しんごうは何なんだと思おもう？肉にくの音おとだ。肉にくを叩たたくとベチャって音おとがするのはわかるだろ？彼かれらは生うまれつき備そなわった肉にくをベチャベチャ叩たたき打うちしながら会話かいわをし、肉にく同士どうしでコミュニケーションを取とっている。彼かれらは肉にくを通とおして空気くうきを吹ふき出だすことで歌うたうことさえできるんだ」

「うわあぁ、歌うたう肉にくだって。いくらなんでもありえない。もうそれ以上いじょう聞ききたくない。ああもうこれどうするつもりなんだよ」

「…公式こうしき的てきにか？それか非公式ひこうしき的てきにか？」

「どっちもだよ」

「公式こうしき的てきには、我々われわれは偏見へんけん、恐おそれ、偏愛へんあいなく、四分しぶん領域りょういきにおけるすべての知的生命体ちてきせいめいたいや知的ちてき複合ふくごう体たいと連絡れんらくを取とり、歓迎かんげいし、記録きろくすることが求もとめられている。非公式ひこうしき的てきには今いますぐこの記録きろくを抹消まっしょうし、このことはすべて忘わすれてしまいたい」

「奇遇きぐうだな私わたしも同おなじ気持きもちだよ」

「多少たしょう残酷ざんこくかも知しれないが、流石さすがに限度げんどってものがある。我々われわれは本当ほんとうに肉にくとコンタクトしたいのか？」

「誠まことに同感どうかんだ。そもそもなんて言いえばいい？ 『こんにちは、肉にく。最近さいきんどう？』とでも？ちなみに彼かれらは一体いったい幾いくつもの惑星わくせいに居いるんだ？」

「たった一ひとつだ。彼かれらは特別とくべつな肉にく容器ようきで他ほかの惑星わくせいに移動いどうできるが、そこで生活せいかつすることはできない。そして肉にくなので、彼かれらはCシー空間くうかんを通とおってしか移動いどうできない。Cシー空間くうかんは光ひかりの速度そくどが限界げんかいだから、彼かれらが我々われわれをコンタクトする可能性かのうせいは無限小むげんしょうに等ひとしいだろう」

「…宇宙うちゅうは留守るすってことにするのか？」

「その通とおりだ」

「酷こくだな。だが、あなたも言いってたように、誰だれが肉にくとコンタクトしたい？ところで私わたしたちの船ふねに乗のっていた者ものたち、あなたが調査ちょうさしたやつだったか？彼かれらの記憶きおくはちゃんと無なくしたか？」

「仮かりに残のこっていたとしても彼かれらは変人へんじん扱あつかいされるだけに終おわるだろう。我々われわれは彼かれらの頭あたまの中なかの肉にくを滑なめらかにし、我々われわれの存在そんざいを肉にくの夢ゆめとした」

「肉にくの夢ゆめ！なんて奇妙きみょうな言葉ことばだ。確たしかに、私わたしたちが肉にくの夢ゆめであることは妙みょうに適切てきせつだ」

「そして、この空間くうかんセクターを『未み占拠せんきょ』とマークする」

「良いいね。公式的こうしきてきにも非公式的ひこうしきてきにも終了しゅうりょうだ。はい、この件けんは終おわり。他ほかは？銀河ぎんがのそちら側がわで興味深きょうみぶかい存在そんざいは？」

「はい、G445ジーヨンヨンゴゾーンの九きゅう等とう星せいにある、かなり内気うちきですが友好ゆうこう的てきな水素すいそコアクラスター知的ちてき気体きたいがいます。二ふた銀河ぎんが周期しゅうき前まえに連絡れんらくがありましたが、再ふたたび友好的ゆうこうてきになりたいとのことです」

「彼かれらはいつもそうだね」

「そらそうよ。もしこの宇宙うちゅうに他ほかの誰だれ一人ひとりも居いなかったら、宇宙うちゅうがどれほど寒々さむざむしくて、恐おそろしくて、耐たえ難がたいものになるのか想像そうぞうしてみなよ」