友達のマーチン
僕には、中学から25年近くの付き合いになる、大原くん(仮名)という友だちがいます。
僕は大原くん(仮名)を「マーチン」と呼んでいます。
今だに月に3.4回くらい2人で遊ぶほど僕はマーチンが大好きですが、マーチンは僕のことをもっと大好きです。
なぜなら、僕が休みの日、またはその前日に必ずと言っていいほど、こんなLINEが送られてきます。ひとこと、
「どした?」
いやおまえがな
おまえがどうした?なんやそっちから送ってきての一発目どした?って。どうもしてないわ。かまってちゃんやめて、休日遊ぼってフツーに言え。
マーチンは、僕の周囲の人たちには、「飛び抜けて変わってる」とか、「ヤバい」とか「ぶっ飛んでる」などとよく言われていますが、25年も付き合ってる僕から言わせればこうです。
マジでそれな
周囲の人たちも、正しくマーチンを捉えているようです。僕もそう思います。
マーチンは、飛び抜けたユーモアや色や音に対する独特のセンスを持っています。
これは、褒めてるわけではなく、シンプルな事実としてマーチンはその辺りが特異な人間です。だから、周りからもそう言われてしまう。
そして、周りにそう言われることに対して「人と違うオレ」みたいな中2的な感じで、「悦」に入ることを忘れないし隠そうともしないあたりが、マーチンの良いところでもあります。
つまり、猫くらいの素直さを備えているということ。
とは言え、彼も立派な社会人、家庭人。
奥さんと2人の娘を持つ一家の「見たことないくらい細っそい柱」として、仕事に対しては非常に真面目です。
この前も一緒にいる時に、マーチンの電話が鳴りました。
相手はおそらく仕事のクライアントでしょう。
「あ、はぃっ。えっ、あっ、ありがとうございます!はっ、えっ、そうですね。はっ、えっその件なんですけど…はっ、えぇっ。なるほどっ、えっ、はぃっ…」
いや呼吸あっさ!!
「浅い」と辞書で引いたら「仕事の電話対応中のマーチンの呼吸」と書いていてもおかしくないくらいの、浅さでありました。
しかしそれは、彼の「根は真面目な性格」ゆえ。
相手に失礼があってはならない、ミスをしてはならない、という緊張感がマーチンをして浅い呼吸をせしめるのだ、と25年付き合ってればそれくらい僕も分かります。本当に真面目なヤツです。
さかのぼって中学1年の頃、僕とマーチンはお互いに音楽好きでギターを弾く共通点から仲良くなりました。
そして中1のある日、彼の部屋でギターを弾いていた時に、僕は彼のエレキギターを手が滑って床にバタンと落としてしまいました。
すると、その衝撃で部屋の床に凹み傷ができてしまった。
「おぉーー!!何やってんだよおまえ!」
彼が怒るのも無理はありません。
大切なエレキギターですし、彼いわくカナダ産の木材で作られたいわゆる良質な床材に、傷をつけてしまったわけですから。そこは素直に「あ、マジでごめん」と謝りました。
あれから25年ほど過ぎました。
親しき中にも礼儀ありというもので、今だに未熟な僕らはお互いに何か迷惑をかけたり、悪いことをしたなぁって時にはきちんと謝ります。
マーチンも僕に迷惑をかけたときは、謝ってくれます。
「ごめんな。でもまぁ、おまえも床に穴開けたしなぁ」
いやまだ言うんそれ??
25年経ってまだ言うん?
恨み、深ない?え、もしかして親、床?オレ親の仇なん?カナダ産の床材から生まれたんキミ?
と、なりますがそこは僕も悪いので「床の件はごめんな」と、なります。
もちろん彼はカナダの床材から生まれたわけではありません。
僕はマーチンのお母さんにもお世話になっていますし、今だにたまにマーチンの実家に遊び行くと「オッス、調子どうや?」と非常なカジュアルさでお母さんに挨拶をしています。
マーチン同様、マーチンのお母さんのことも大好きなのです。
さて、
いくつになっても、遊べる友がいるとはいいものです。もうオッサンと呼んでも1ミリの違和感もない「アラフォー」である僕とマーチンですが、遊んでいるとなんだか昔のまんまな気もする。
たぶん、いや、確実にこの文章もマーチンに読まれることでしょう。
そして、読後マーチンはこう思うでしょう。
「おいしく書いてくれて、サンキューな」と。そして、SNSでシェアすることでしょう。
25年も付き合ってればそれくらい分かるのです。友だちって、きっとそんなもんです。