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RDLでバーを身体の近くにキープする理由 〜S&C視点のバイオメカニクス的考察〜

ウエイトトレーニングのエクササイズの1つに、RDL(ルーマニアンデッドリフト)という種目があります。

私にとってRDLは、新規クライアントさんのトレーニング指導を開始するときに、一番最初にやっていただくエクササイズです。それだけ重要であり、基本的なエクササイズである、と私は考えています。

また、RDLは必ずしもウエイトトレーニング初心者だけに適した簡単なエクササイズというわけではなく、初心者から上級者まで、ウエイトトレーニングキャリアを通じて、ずーっと実施し続けることができるような万能種目でもあります。


セミナーで答えられなかった質問

このRDLというエクササイズに関連して、以前に「S&Cバイオメカニクス入門」というセミナーを開催したときにいただいた質問のなかに、その場で自信をもって答えることができないものがありました:

RDLではバーを身体の近くにキープするよう指導するケースが多いと思いますが、それはどうしてですか?バーが身体から離れる場合と比べて、バイオメカニクス的に何が違うのですか?

実際に、私がRDLを指導するときには、バーを身体の近くにキープするよう指示します(下図の左側のようなイメージです)。

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RDLを実施するときにバーを身体の近くにキープするというのは、私の指導に限ったことではなく、S&C業界では一般的に「正しいフォーム」として受け入れられている動作だと思います。

ただ、あまりにも当たり前すぎて、なぜそうすることが正しいのかについて、私自身は深く考えたことがありませんでした。

そして、いざセミナー講師として質問をされて、しっかりと答えないといけないシチュエーションに立たされてみると、自信をもって理路整然と答えられるだけの「理屈」が私のなかで確立されていないことに気づかされたのです。


本質的ではなかった私の回答

セミナー中は、その場でなんとか質問に答えようと脳ミソをフル回転させて思いついた、もっともらしい理由を挙げました:

将来的にクリーンとかスナッチの習得に繋げたい場合、クリーンやスナッチでバーが身体から離れると効率の悪いフォームになってしまうので、RDLをやっているときからバーを身体の近くにキープする癖をつけておく必要がある

これはこれで、RDL実施中にバーを身体の近くにキープする理由の1つとしてはアリなのかもしれません。

でも、「本質的な理由ではないな」「バイオメカニクス的な説明にはなっていないな」と自分で感じました。回答している本人が、しっくり来ていなかったんです。

実際、「じゃあ将来的にクリーンやスナッチを習得するつもりがないのであれば、RDLでバーを身体の近くにキープしてもしなくても、どっちでもいいってことですか?」ってツッコまれていたら、「いや〜・・・」と口籠っていたでしょうから。

だから、将来的に他のエクササイズの習得に繋げる可能性とは切り離して、「RDLによるトレーニング効果」だけに焦点を絞って考えたとしても、バーを身体の近くにキープすることには合理的な理由があるはずです。

もし、それがないのであれば、RDLにおいてバーを身体の近くにキープするよう指導することにはなんの根拠もないってことになってしまいます。

しかし、自分自身でRDLを実践してきた経験や、アスリートにRDLを指導してきた経験からすると、やはりRDLでバーが身体から離れちゃうのはよくないエラー動作である、という感覚はあるんですよね。

その感覚が間違っていて、バーを身体の近くにキープしようが身体から離そうが実のところはたいした違いはない、ってことは絶対にないだろうという確信みたいなものはありました。まあ、直感ってやつです。

ただ、その理由をバイオメカニクス的に説明するだけの「理屈」が、そのときには私のなかで確立されていませんでした。


S&C視点でバイオメカニクス的に考察してみた

本質的ではない、ある意味ごまかしの回答で済ましてしまうのは、せっかく質問をしてくれたセミナー参加者に申し訳ないという気持ちがありました。

また、セミナー云々とは関係なしに、専門家として自信をもって説明できるだけの根拠がないのに、RDLでバーを身体の近くにキープするよう指導するわけにはいかないな、という想いもありました。

そこで、セミナー終了後、RDLでバーを身体の近くにキープする場合と身体から離す場合とで、バイオメカニクス的にどのような違いがあって、なぜバーを身体の近くにキープしたほうがいいのかについて、ノートに絵を書いて見比べたりしながら、自分なりに時間をかけて考察をしました。

すると、セミナー中には咄嗟に思いつかなかったような納得のいく説明にたどり着くことができました。

バイオメカニクスの専門家から見たら、少し正確性に欠ける考察になっているかもしれませんが、S&Cコーチの立場でバイオメカニクスの知識を使って考えたものとしては、個人的には十分に納得感のある説明だと考えています。

それを本note記事の有料部分で解説します。


本note記事を購入して学べる内容

本note記事で解説するバイオメカニクス的な「理屈」は、RDLでバーを身体の近くにキープする場合と身体から離す場合の違いの説明だけに当てはまるものではありません。

それ以外にも、たとえばRDLに似た動きをするエクササイズであるグッドモーニングとRDLとの違いを説明するのにも当てはまるし、床からバーを引くデッドリフトにおいてバーを身体の近くにキープするべき理由を説明するのにも当てはまるような、本質的な「理屈」になっています。

私自身、この「理屈」にたどり着いてからは、以前よりも自信をもってRDL中にバーを身体の近くにキープするよう指導できるようになりました。

また、エクササイズの違いや、同じエクササイズであってもフォームの違いによって、バイオメカニクス的にどのような差が生まれて、それがどのようなトレーニング効果の差に繋がりうるのかについて、私自身の理解がかなり深まりました。

セミナーで質問をしてくれた参加者の方にはとても感謝しています。

そのときのセミナー参加者の皆さんには、後日、質問に対する回答を改めて動画に収録して送らせていただきました。

本note記事は、その動画の内容を文章という形で書き直したものになります。

RDLというエクササイズを頻繁に指導されている専門家であれば、知っておいて損はない内容です。

ちょっと前の私と同じように、RDLでバーを身体の近くにキープすべき根拠がわかっていないようであれば、ぜひともお買い求めください。

※ちなみに、ここで解説する内容を理解していただくためには、回転運動におけるモーメントアームやトルク等、最低限のバイオメカニクス的知識が必要になります。事前にバイオメカニクス関連書籍を読んで勉強しておくか、私がオンラインで開催した「S&Cバイオメカニクス入門セミナー」を収録した動画教材の購入をご検討ください。

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