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マスク好きな女がマスクに助けられた話(3)

第3話「4枚400円ならわかるけど」

 2020年2月の半ば、新型コロナウィルス感染拡大のニュースがテレビで取り上げられる頻度が高くなり、地方でも市販の不織布のマスクが不足し始めた。脱サラして起業して、借金を抱えてしまった貧乏な私は、使いきりの不織布のマスクを洗って再利用するという技をすでに持っていた。「不織布のマスクは、洗うとしんなりふんわりして付け心地が良くなるから、大丈夫!」という、変な自信に満ち溢れていて、「洗って繰り返し使って節約しちゃえばいいじゃん」などとお気楽に暮らしていた。新型コロナウィルスは季節性のものとしてすぐに収束する、と楽観的に思っていたのである。

 「人と人との距離が近い場合、飛沫により感染する可能性がある」と新たな情報を得て、自分ののん気さを改めた。私が起業した分野は着物の着付けのアクティビティのサービスで、人と密着することが避けられない。これでは営業することが出来ないではないか。借金して(正確には融資を受けて)起業した自分には、メインとなる収入源が断たれてしまったのである。さてどうするか。

 ちょうどその時、通っていた和洋裁の学校の先生が授業で「マスクが不足してくるだろうから、作り方を教えておきますね。」と、布マスクの作り方を教えてくれた。「さらしなら家にあるでしょう?ダブルガーゼもいいけど、手ぬぐいとかも肌触りがさっぱりしてよいわよ。」素材に関してもいろいろ試してみる余地がありそうだ。そして私はこの時、作った布マスクを売ってみようと思ったのである。私の事業のもう一本の柱に、着物のリメイクを立てていた。そこで裁縫技術を活かして布マスクを作って、販売してみることにしたのである。

 課題はデザインと価格設定。浴衣の生地を使ったデザインマスクを作ってみたいが、色柄マスクはまだ市民権を得ていない(2020年2月現在)。ハンドメイドだとどうしても販売価格が高くなり、「安くしてほしい」と言われるとオロオロしてしまう。市民権を得ていない色柄のマスクに値段を付けて売るなんてことをしたら、ボッコボコにディスられるのではないか・・・と怯えつつも背に腹はかえられない。

 そこで布マスク売りはじめの一歩は、ほぼつながりのない知らない方々に販売して反応を見てみることにした。かねてより裁縫は、料理を作る、電気工事をする、ということと同じように技術だと思っていたので、「布マスクを作った縫製技術、材料費と引き換えに、欲しい方に対価としてのお金を出していただいて、売買を成立させる」と唱えながら布マスクを作り、インターネット上で売買できるサービスを使って売ってみた。すると、買ってくれる人がいたのである。「マスク不足だったので助かりました」「縫製がしっかりしていて安心した」「浴衣地のマスク、おじいちゃんへプレゼントしました」とコメントいただいて、色柄の布マスクを作って売ることに対して少し自信が持てた。

 しかし、家族や知人からは、「手作りのマスクでお金を取るとか詐欺だ」、「高すぎる!4枚400円ならわかるけど」、「布マスクは無料にして差し上げるべきだ」と言われ、動揺する。収入源が断たれてしまった借金持ちの私には、無料で差し上げることはどうしても出来ない。ハンドメイドの布マスクにはお金を出す価値がないのか?世の中は、裁縫技術への対価を与える価値がないという意見が大多数なのか?

 悶々としながらもマスク好きの私は、布マスクが作れるという楽しさを味わいながら、作っては写真を撮り販売サイトにアップしていったのである。(つづく)

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第1話「ピンクのマスクとか変だからやめなさい」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/nabbeea21c6af/edit
第2話「もしかして感染したんじゃないの?」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/ned737f71945b

第4話「マスクで始まる新生活」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/nd79c5a2d3139
第5話「マスクなんか普段しないのに・・・」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/n3d8f3304fa96
第6話「ホーホケキョ けきょんの後は パビリオン」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/n35c858caa93c
第7話「マスクに見るホモサピエンス」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/ne402da34e6f7
番外「コンクリートの塀の向こう側」
https://note.com/kawamichi_ryoko/n/n3b7fe6cb3c1e


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