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大河「光る君へ」(2)めぐりあい 

※「源氏物語を読みたい80代母」のための企画です。最終回までこの形式で続ける所存。思いっきりネタバレ全開なのでご注意くださいまし。
お喋り役の平安女房ズは以下:
右近(右)、侍従(侍)、王命婦(王)、少納言(少)


侍「ねえ右近ちゃん」
右「なあに侍従ちゃん」
侍「今回もメッチャ面白かったねー光る君へ!子役まひろちゃんがもういないの寂しいけどー、裳着の式!リアル成人式シーズンに被せて来たね平安女子の成人式!え、もしかして大河初じゃない?裳がファサーと床に広がってるところとかー、儀式疲れたまひろちゃんがそのまますっぽり脱いで空蝉状態になってるやつとかー、超イイ!ザ・平安!って感じ」
右「NHK『光る君へ』サイトによると、吉高由里子さん扮するまひろちゃん今回15歳らしいね。たぶん数え年だろうから970年生まれ説を採用かなあ。とすると三郎くん、いや道長と四歳違いか」
侍「15歳と19歳、ちょうどいい年周りじゃーん♡てかさー元服後の三郎くん、いや道長くん?ってまるであの子役くんがそのまんま成長したみたいだったよね。もはや血繋がってるとしか思えない。あのあどけない少年がこんなに凛々しくご成長なされて……!って感じ。特にあのほら、耳のあたりでピラピラしてるアレ」
右「おいかけ(老懸)?」
侍「そうそれ!思い出すわ……『紅葉賀』で青海波を舞った若きヒカル王子の姿を(うっとり)」(ひかるのきみ「紅葉賀」はこちら
王「ちょうど十九歳の頃なのよね、そっちも」
右「あら王命婦さん。今日は早いわね」
侍「いらっしゃーい!て待って、『紅葉賀』の時のヒカル王子と今回の道長くん同い年なの?!」
王「そう。武官ってところも同じ。ただ道長くんが従五位下・右兵衛権佐うひょうえのごんのすけに対しこの時の王子は既に中将、青海波の後ご褒美的に昇進して正三位、だけどね」
侍「マジか……ヤダ絶対狙ってるよコレ。きっとアタシだけじゃないわヒカル王子を連想した人」
右「そこかしこに色々ほのめかしやら匂わせやら多いわよね。そこもまさに平安ぽいところ」
王「かと思えば、藤原鎌足かまたり中大兄皇子なかのおおえのおうじの馴れ初めエピソードのオマージュなんかも出てきてビックリだったわね」
侍「エっなにそれ!知らない!」
右「ほら、まひろちゃんが石を蹴ろうとして草履を飛ばしちゃって、道長くんの後頭部に当てちゃうシーン」
王「時は飛鳥時代……蹴鞠の会で、同じように中大兄皇子がウッカリ飛ばしたくつを拾って捧げ渡したのが中臣鎌足なかとみのかまたり。彼はそれ以来皇子と組んで大化の改新の立役者となり、臨終間際に藤原の姓を賜った。華麗なる藤原一族の系譜がここからスタートってことよ」
侍「へえええええ!えーと……ハキハキシャキシャキのまひろちゃんにタジタジって感じの道長くんが拾って渡す方ってことは……なるほど!」
少「私、思わず『姫、はしたないですわ』って叫んじゃいました……」
右「少納言さん!遅かったわね、どうぞ入って入って」
王「わかるわ。上流じゃないとはいえ貴族の女子が一人で外出は流石にないし、まして蹴飛ばすなんて動作ありえないわよね(笑)」
侍「それはそうなんだけどー、大河って一種のファンタジー、パラレルワールドみたいなもんだからさあ、いいのいいの!淡い初恋の君に六年越しで再会して、優しくお履はかせてもらって、会えるまで通う!とか言われちゃってさぁキャーもうどうしたらいいのこの胸のトキメキを……!尊すぎてしぬ……!なーんて悶絶しつつ楽しんだ方が勝ちよっ!」
少「大丈夫です侍従さん、その辺は承知してますわ。前回からこっちどうしてもまひろちゃん……もう裳着の式が終わりましたからまひろさん、ですわね……を乳母目線でみてしまって(うるうる)」
右「わかりみ……何だか若紫ちゃんが此方の世界で自由に跳ね回ってるように見えてハラハラするのよね。ウっ(もらい泣き)」
王「そういえば裳着の腰結役って宣孝さんだったじゃない?その辺も寄せてるわね。紫ちゃんの時はヒカル王子、つまり」
侍「両方とも未来のおっ……」
全員「シーーーーッ!」

 衝撃の第一回目に引き続き、今回もまた何から話したらいいやら迷うくらい内容充実でしたね。本当にありがとうございますと言いたいです。
 まずまひろちゃんの代筆業。貴族の子女が独りで出歩くパラレルワールド(笑)とはいえそう来るか!と唸りました。しかも「夕顔」ネタをしっかりぶっこんできた。あのお歌、絶対源氏物語中のアレを使ってるにちがいない!と思っていたらやはりそうでした。「美術館ナビ」の記事:【光る君へ】第2回「めぐりあい」回想 まひろが代筆した歌は光源氏が夕顔に送ったもの 父娘の葛藤に吉高さん「父はまひろが一番尊敬する人。だから譲れない」
 お歌は今後も気をつけて聞いてないとですね。冒頭の、裳着式後にまひろが書いていた歌
「人の親の 心は 闇に あらねども 子を思う道に 惑いぬるかな」
も、紫式部の曾祖父・藤原兼輔の歌で、源氏物語中に頻繁に出てきます(これはすぐわかった!)。まひろは、父が自分たち子供の生活や将来を守るため断腸の思いで嘘を貫き通したことを理解はしている。だが全く納得はできていない。子を思うあまりの闇に惑う父の姿を見るのが辛い。そこで「書くこと」=代筆業にのめり込む……という流れかと解釈しました。
 面白いのは、代筆だけでなくお悩み相談もしてるところですね、しかも男の声音で。事実面倒見は良かったようで、友人たちにも頼られることが多く、夫の死後に別の妻の娘と文のやりとりまでしていたといいます。依頼人の性格や背景・状況に合わせて歌を詠むというのがまたポイントです。源氏物語中でまさに同じようなことをやってる。登場人物それぞれの個性を踏まえた歌が実に795首!こんな離れワザを行うスキルを一体どこで培ったのか?という疑問の答えにもなっている。
 そして「男の声音」、はじめその意味がわからなかったのですが、Twitter(X)で「紀貫之きのつらゆきへのオマージュではないか」というツイートを見かけておお!となりました。
「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて」
 で始まる「土佐日記」の作者・紀貫之は自らを女と見立ててかな書きの文章を書きました。まひろが男のふりをしつつ代理で歌を作るという設定は荒唐無稽でありながらも、所々に何らかの真実を含んでいる気もして味わい深いです。現存するわずかな情報から推し量れる要素と、フィクションをうまく組み合わせていると思いました。
 うわー、ここまででこんなに長くなってしまった。詮子さんや円融天皇、花山天皇(師貞親王)、実資など語りたいことは山ほどあるけど際限ないので、最後にこれだけ。
 前回気になった道兼の穢れについてですが、父親はとっくに全部知ってたんですね。穢れを家に持ち込んだ罪をお前は償わねばならない、だから……と息子を脅すために黙ってた。此方もまた「闇に惑う」父親ですね。いや「闇に棲んで息子を引っ張り込む」父親か(余計悪い)。
 この父は自分と次男で全て背負うつもりでいるようですが、道長が密かに「穢れ」を目撃してしまったことは知らないかもしれない。道兼は知ってる。つまり道長もまた無垢ではいられない。穢れは祓われない限り、次々伝染し広がっていくものらしいですからね。いや怖い怖い。
 次回は「(3)謎の男」。予告編に「雨夜の品定め」っぽい絵がみえました。楽しみですねえ。
<つづく>



「文字として何かを残していくこと」の意味を考えつつ日々書いています。