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まんじ文様

台風のつむじは左巻き 

わたしたちが普段見慣れている地図は、北を上にして大陸や海が描かれています。球体の地球に南北のどちらが上でも構わないのですが、大航海時代以降、航海に必要不可欠の目印であった北極星やコンパスが示す「北」を便宜上地図の上にもってきたためのようです。このため、われわれはアジア諸国と欧州諸国を含むユーラシア大陸、北米大陸など世界人口の3/4以上を占める北半球が主体となった地図イメージを抱くようです。けれども、オーストラリアやニュージーランドに出かけると、南が上で北が下の地図、つまり上下逆さまの世界地図をときどき見かけることがあります。世界地図のイメージが大きく変わる、まさに、逆転の発想です。

話は変わりますが、台風は東アジア周辺の赤道以北、つまり北西太平洋や南シナ海上に発生する熱帯低気圧です。北米・中米大陸の沿岸域、つまり赤道以北の北東太平洋や大西洋に発生する熱帯低気圧をハリケーン、一方、インド洋や南太平洋で発生する熱帯低気圧をサイクロンと呼んでいます。これらの熱帯低気圧は、熱帯域の大気に蓄えられた大量の熱エネルギーと水蒸気を、大気の流れを通じて南北の中緯度地域へと運ぶ役割を果たしているとも言えます。

熱帯低気圧は、大気が気圧の低い部分に向かって流れ込む。つまり、風が吹き込むのですが、地球の自転の影響を受けて旋回し、渦をかたちづくります。北半球にできる熱帯低気圧の渦、たとえば台風やハリケーンは左旋回、反時計回りの渦を形成します。一方、南半球にあるオーストラリア付近のサイクロンは右旋回する時計回りの渦を造ります。しかし、いずれの場合も低気圧の中心部は、風もなく、青空が拡がる穏やかな天候が見られるのではないでしょうか。したがって、もし台風の進路を台風と同じ速度で低空を飛ぶ飛行機に乗れば、青空のなか快適な飛行が楽しめるのではないかと想像します。

わたしは、小学6年時に遭遇した第二室戸台風を鮮明に覚えています。この台風は、1961年(昭和36年)9月16日に室戸岬沖から上陸し、四国と淡路島の東部をかすめて阪神間に再上陸、京都から若狭湾へ抜け、京阪神地区に甚大な被害をもたらしました。その後、台風は、富山県能登半島から日本海上に出て、北海道の西岸をかすめてサハリン付近からオホーツク海に進み、温帯低気圧となりました。気象庁の発表では、台風の風速は75m/s、上陸時の中心気圧925 hPaでした。

小学校はもちろん休校となり、わたしは京都の自宅にいました。雨戸の隙間から猛烈な雨風を眺めていましたが、昼過ぎにはパタッと風がやみました。青空が拡がって太陽も見えたので、てっきり台風が過ぎ去ったものと思い込み、兄弟で外に飛び出したのですが、その後逆方向から猛然と風が吹き出し、慌てて家に戻ったのを憶えています。京都付近を「台風の目」が通り過ぎたことを後になって知りました。現在では、気象観測衛星があります。台風の進路を予測する技術も格段に進歩しているので、リアルタイムで台風の位置を把握し、進路をほぼ精確に知ることができます。

流れるまんじ 

さて、いまでは台風を俯瞰した写真をしばしば目にします。宇宙から映し出した台風の映像をリアルタイムで見ることができる時代です。このような台風の写真や映像を見ると、しばしば「まんじくずし」や「ともえまんじ」のイメージが浮かびます。まんじを『広辞苑』で引くと、万字の意、吉祥の印とあります。崩しまんじは法隆寺の金堂や五重塔の高欄にも見られますが、巴(ともえ)まんじ、あるいは流れまんじは、混沌とし、流れて回転する世界を表象したものです。Noteの『蓮華文様』(2020年9月25日)において、蓮華文様が表と裏の流れまんじを組み合わせたものであり、仏法の三法印を表しているという見解を述べました。まんじは流動する諸相を表します。つまり、まんじは万物が縁に因って起こり、千変万化して、実体がないことを示したものです。

先述の熱帯低気圧の渦をまんじ文様に当てると、左旋回のまんじ、つまり「表まんじ卍」は北半球の台風やハリケーンに、また、右旋回のまんじ、「裏まんじ卐」は南半球のサイクロンの渦巻きに比定されます。表まんじ卍と裏まんじ卐は、ちょうど上下が同じで、左右が反対となる鏡像の関係、つまり実像と虚像を表し、ともに激しく渦巻く世界と森羅万象を表象しているイメージを受けるのです。対照的に、両者の渦の中心部は、大気も穏やか、事物が動かない不動の世界が拡がっていると捉えることはできないでしょうか。

写真:https://white-circle7338.com/taihuunome/


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