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金継ぎ香合 神代杉の兜

昨年暮れ、ネットオークションで神代杉の兜香合を見つけ、これを手に入れた。作者は石川県加賀の茶道具・指物師ですが、神代杉特有のグレーの色味と緻密な柾目の木目を活かし、最小限の金箔と朱塗・金泥の装飾によるすっきりした景色が気に入りました。

届けられた木箱をわくわくしながら開けたところ、大変残念なことに、配送時に兜の吹返しの先端がかけ落ちていたのです。がっかりして仙台市の美術商にわけを書き、品物を返却したい旨メールをしたのですが、ふと金継ぎができるかもと思い直し、調べてみました。幸い三つのかけらがすべて揃っていたので、割れたり、欠けた陶磁器を漆と金泥で継いで修復する金継ぎを木工芸品に応用して、あえて継ぎ目を見せるのもおもしろいと思ったのです。京都で金継ぎ屋を探して持ち込んだところ引き受けてくれることになり、修理をしました。香合を販売したS美術商からは大変誠意ある対応をいただけたのも有り難いことでした。

神代杉は東北地方でよく出土します。秋田県には、火山の巨大噴火により埋もれた遺跡があります。平安時代915年の十和田カルデラの巨大噴火により火山泥流堆積物によって埋没した建物が道目木遺跡や胡桃舘遺跡などから掘り出されています。とくに、胡桃館遺跡については当時の歴史、文化が「タイムカプセル」のように閉じ込められ、今後の調査によって貴重な資料になることが期待されます。

有史以前の火山の噴火としては、鳥海山が紀元前466年(縄文晩期あるいは弥生前期)の噴火により大規模な山体崩壊を起こしました。この山体崩壊によって埋没した樹木の年輪年代測定から、山体崩壊の発生年代が判明したのですが、鳥海山周辺には巨大なスギに混じって、クリ、トチ、ブナ、コナラなどの落葉広葉樹が生い茂っていたようです。近年になって、火山灰や土砂の灰分を含み、腐らずに残った埋もれ木が、秋田県にかほ市近辺の高速道路建設のための土木工事に伴い、見つかっています。

土中に千年以上経たいわゆる埋もれ木は掘り出されて、天板や建具、細工物などに加工され珍重されています。古材の風合いを備えているので、茶人や好事家の間で人気のようです。わが国の縄文期を生き、火山の噴火で埋もれた樹木が、突然化石のように蘇えってくるので、ロマンを感じるのでしょうか。

そればかりか、埋もれ木は、蒸し焼きにされ、長年月にわたって無酸素下で貯蔵されていたので、狂いが小さく、シロアリや腐朽菌に強く、木材としても優れているのです。木材の熱処理や水熱処理、水中貯木など、現代の加工技術に通じるものがあります。

金継ぎした神代杉の兜香合は、丁度修理が間に合い、端午の節句に向けてただ今我が家の床の間を飾っています。

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