山の神

女性の地位の向上、なんて事を言ったりする。

まあ、そうでしょうよ。いいでしょう。

大変結構なことでございます。


昔から女性の地位が低かったのだと言う。

まあ、そうなんでしょう。

昔の奥さんは旦那が帰宅すると三つ指ついて「おかえりなさいませ」とお出迎えしなければならなかったのだという。


だけど、ちょっと想像してみると、「おかえりなさいませ」の後に必ず

「余計なこと」を二言三言言ったのだろうな、と容易に想像がついたりする。

「おかえりなさいませ」

「随分遅いお帰りで」

「どこへいらしてたの?」

とか。

それで旦那は震え上がったりなんかしたのではないのだろうか、、、。

昔から奥さんの事を「山の神」と言ったりする。

要するに、怖かったんじゃねぇーか、と思ったりする。


山内一豊の妻、 お千代さんとか、

豊臣秀吉の奥さんとか、

夫を操る恐ろしい奥方はたくさんいたのだと思う。

歌舞伎の「身代わり座禅」に出てくる恐ろしい女房は、いかつい立役が勤める役だ。

浮気をして帰ってきた旦那を鬼のような恐ろしい形相で責め立てて、

旦那は蛇に睨まれた蛙の様になってしまうのだ。


あの芝居、奥さんが旦那を追いかけ回すところで幕になるけれど、
あれだとどうも、歌舞伎っぽくないと思ったりする。

なので、奥さんが戸隠山の鬼女になって、蜘蛛の糸で旦那を絡め取って、
大見得を切って終わったらどうかと思ったりする。
そのほうが歌舞伎っぽいと思うのだが、、、。

実情にも合っているかもしれないしねぇ、、、、。

、、、、、、、、、、、、、、。


落語に出てくる奥さん、「うちのかかあ」も、だいたい凄かったりする。

だからね、おまいさんはね、ダメなんだよ、とか、

おまいみたいについでに生きてる様な奴がどうのこうのとか、

落語を聞いていると、その奥さんの毒舌に、顔まで想像出来る様な心持ちになる。


サッカーの大久保嘉人をしわくちゃにした様な顔だったりする。

「火焔太鼓」という落語が大好きだ。

五代目 古今亭志ん生さんの「火焔太鼓」は、ホントにいいなあと思う。

道具屋の、「ついでに生きてる様な」旦那に、

「だからおまいさんはダメだ」のなんのと言う奥さんが出てくる。

市で古くさい太鼓を仕入れてきた旦那に、そんなもん売れやしないのなんのとガミガミ言うのだ。

太鼓の埃をはたいたら音が鳴って、それを聞いた大名が、

その太鼓を屋敷まで持参いたせ、ことによるとお買いあげになるかもしれんぞ、と家臣が道具屋に言う。

奥さんは、そんなもの売れやしないから、いくらだと聞かれたら

「はい、1分でございます」と言って、儲け無しでもいいから売って来いと言う。


しかし屋敷に持っていってみると、300両ではどうか、と言われるのだ。

小判300枚の包みをしっかり抱いて帰った旦那は、

ざまーみやがれだの、びっくりして座りションベンしてバカんなるな、とか、ひっくりかえらねえ様に柱に捕まってろだの、散々言い返して溜飲を下げるのだった。


要するに、怖くて文句も言えないので、せめて噺の中だけでもという夢物語なのではないか。


「火焔太鼓」 昭和の名人 古今亭志ん生


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